【島人の目】ハリウッド巨匠が語る使命


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 米アカデミー賞受賞作「グラディエーター」や「ブラックホーク・ダウン」など数々の秀逸な作品を輩出したハリウッドの巨匠リドリー・スコット監督に話を伺う機会を得た。
 世界的大ヒットを記録した「エイリアン」のシリーズ最新作(「エイリアン5」)の3D化で、多忙を極める監督に私が聞いたのは、なぜ戦争を主題とした歴史物語を多く手掛けているかという点だ。

 一つのテーマのもとに対峙(たいじ)する二つの「異なるもの」を描くのが得意なスコット監督は、「キングダム・オブ・ヘブン」でキリスト教とイスラム教の宗教対立、「ブラックホーク・ダウン」では、ソマリアへ介入する米軍が現地住民の猛反撃によって失敗する過程を描き出すなど、対立に伴う戦争への批判を一貫して主張している。
 1937年英国生まれのスコット監督の父は軍人で、第2次大戦後は同国東北部の工場地区に移住。映像化は困難とされていたSF小説を映画化した「ブレードランナー」は、ここでの生活経験が無機質な街の描写に生かされている。
 人々が貧困に苦しむ街で、父の背を見ながら、「軍とは自由を奪う支配者なのか、それとも平和をもたらす存在なのか」と子どものころから漠然と考えてきたと話す監督は、10回の転校を経験。国境を越えた生活体験が増えるにつれ、「立場が変わるとモノの見方も変化するんだ」と実感し、後に「歴史認識は時の施政者と語り手によってつくられる」という理解を生んだ。
 日本で12月に公開される最新作「ロビン・フッド」は、12世紀末の英国を舞台に、十字軍から帰還したラッセル・クロウ演じるロビン・フッドが、民衆を苦しめる王による圧政の打倒を目指して立ち上がる物語だ。「服従か死か」と重税を課す王にとってロビン・フッドは反逆者だが、民衆にとっては救世主。英国の再興を懸け国内闘争から民を守る話は、今の日本と重なる部分も多い。
 この作品を作る段階で、監督が主演のラッセルと徹底的に議論したのは「生まれの卑しい男がいかにして民衆の英雄になりえたのか。権力の横暴を阻止する必要が生じた時、ロビンを立ち上がらせたのは何か」という点だ。
 「人間は歴史から学ばない。だから歴史は繰り返す。だから私たちクリエーターはメッセージを発信し続けなければならない」と自身の使命を訴える監督が描いた1人の英雄の活躍。ぜひ劇場の大スクリーンで感じてきてほしい。
(平安名純代、ロサンゼルス通信員)