【ブラジル】元シベリア抑留者補償開始 県系人2人対象


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元シベリア抑留者の天願憲松さんと妻の照子さん

 6月に施行された日本の「シベリア戦後強制抑留者に係る問題に関する特別措置法」(シベリア特別措置法)に基づき、独立行政法人・平和祈念事業特別基金から元抑留者に特別給付金が支給されることになり、給付金請求受け付けがこのほど始まった。

ブラジル在住の県人では、天願憲松さん(88)=旧具志川市出身=と松本實隆さん(86)=大宜味村出身=の2人の元抑留者が確認されている。戦後移民の多いブラジルにもかなりの元シベリア抑留者が存在するとみられるが、その数は定かではない。
 天願さんは長年日本政府の元抑留者に対する恩給制度に疑問を持ち続けていた。終戦後シベリアの極寒の地で同じ強制労働に従事させられた元抑留者が、帰還の日付によって恩給資格が決定されるからだ。
 天願さんの場合はたまたま帰還が早かったため、軍人在職年数が恩給支給資格年数にわずかに満たず、該当しなかったのである。
 親類や知人、友人を介して県や国へ算定方法の見直しなどを求めたが、制度の壁は厚かった。今回の特別措置法による一時金の支給も帰還の時期によって5区分されている。天願さんは一番下のランク(25万円)とされた。請求手続き受け付けは2012年3月31日までだが、外国にいて高齢となった該当者にとっては、個人で請求手続きをするとなると、他者に依頼するしかなく時間もかかる。
 シベリア特別措置法にはもう一つ大きな問題がある。ブラジルに帰化した元抑留者には受給資格がないことだ。戦争で苦しみ、移民として苦労し、生きていくためにやむなく帰化した人が、日本国籍に戻りたくても手続きは容易ではない。
 天願さんは言う。「シベリアの土となった戦友たちのことを思うと胸が痛む。政府の対応は遅かった。しかし、今は生きて帰れただけでもありがたいと思う」と語った。(与那嶺恵子通信員)