【島人の目】Simangia bene?


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「その店おいしいの?」とレストランのことを聞くとき、イタリア語では「si(シー) mangia(マンジャ) bene(ベネ)?」と問う。直訳すると「良い食べ方ができる?」とか「うまく食べられる?」とかいう言い方である。不思議な言い回しには実は結構大きな文化的な意味合いが含まれている。

 つまりイタリア人は、食事がおいしいかそうでないかを判断するとき、単に食べ物の味だけをとらえるのではなく、店の雰囲気や値段やウエーターなどの従業員の態度、あるいは料理人の質などの要素を加えて「おいしい」あるいは「おいしくない」と結論付けているのである。
 日本では極端に言えば、店が汚くても狭くてもあるいはオーナーのおやじが無愛想でも、味さえ良ければおいしい店ということになる。イタリアではそういうことはあり得ない。
 食事には会話が付きものである。会話をするためには、腰を落ち着けてゆったりできる雰囲気のいい場所が必要になる。店の主人が仏頂面だったり、ウエーターがサービス精神の薄い「殺風景な人間」だったりしては論外だ。料理そのものの味だけではなく、会話という社交をもり立ててくれる要素を兼ね備えた店が、すなわちイタリアにおける「おいしい店」なのである。
 レストランは食事をしながら会話を楽しむ場所だから、この国のレストランはいつも人声で騒がしい。言い換えれば、客がいつもにぎやかで笑い声の絶えないレストランが「おいしい店」とも言える。イタリアに限らず西洋社会の常で、ここでも社交や会話が重要なキーワードになるのである。
(仲宗根雅則、イタリア在住、映像ドキュメンタリー作家)