【島人の目】ドリーム法案


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 マーク・ファラーレスはフィリピン・ケソン島生まれ。1990年10歳の時に両親と共に「一時訪問者ビザ」でアメリカへ入国、以来20年間不法滞在をしている。最近2人の移民官の訪問を受け、不法移民収容所へと連行された。最後の望みであった「ドリーム・アクト法案」もアメリカ上院本会議で否決され、廃案となることが鮮明になり、彼はフィリピンへ強制送還の憂き目に遭遇している。マークと同様多くの優秀な不法移民の学生らが窮地に立たされたと、ロサンゼルス・タイムズは伝えている。

 マークの父ジェイミーはフィリピンで有能な弁護士であったが、反政府キャンペーンをしたため銃撃を受け、九死に一生を得て、妻、マーク、3人の娘と一緒に国を脱出、ロサンゼルスへ来た。3人の娘は市民権を持っている人と結婚して問題はなくなったが、父の再三の移民局への「政治亡命による永住権申請」はことごとく却下され、父の死後一人マークだけが取り残された。
 マークはロサンゼルス近郊の高校を優秀な成績で卒業、総代を務めた。ハーバード大に進学、卒業した。その後カリフォルニア州立大サンディエゴ校で修士号を取得した。博士課程へ進む段階で連行された。「弁護士をたて、2人のカリフォルニア州の上院議員も力になったが共和党の反対に遭い規定数を獲得できなかった。生まれた国を捨て、今度は真の故郷と慕った米国と離別しなければならない運命」を嘆いている。
 米国上院本会議は2010年12月18日、幼少期に親などに連れられて米国に移り住んだ不法移民の若者に、合法滞在の身分を保証する通称「ドリーム・アクト法案」の採決に向けた動議の賛否を問う投票をした。結果は否決された。その法案を強く支持していたオバマ大統領は「非常に失望した」との声明を発表、ロサンゼルスの移民人権連盟の広報担当者は「アメリカの暗黒の日―民主主義の失墜」と批判した。
 マークのように米国を祖国のように愛する多くの勤勉な不法移民や学生は見捨てられた感があり、帰る祖国もない実情を考えると心が痛む。
(当銘貞夫ロサンゼルス通信員)