【島人の目】麻薬大国


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 イタリア半島の東海岸にヨーロッパ最大の麻薬患者更生施設「サンパトリニアーノ」がある。多い時で2千人もの患者を収容するその巨大施設が、今大きく揺れている。創設者一族が施設の経営から身を引くと発表したのである。

 あまり言いたくないけれども、僕が仕事の拠点にしてきたミラノは、世界でも有数の麻薬汚染都市である。過去には「世界最悪の」というありがたくない烙印(らくいん)まで押されたことがある。人口10万人当たりの麻薬関連の死亡者数で見た結果、常にトップだった米国のサンフランシスコを抜いて、ミラノが世界第1位に躍り出てしまったのだ。
 イタリアには豊かな他の欧米諸国と同様に麻薬がまん延している。そうした社会状況を受けて1978年に「サンパトリニアーノ」は誕生した。
 麻薬患者らによる自給自足生活を基本方針にした施設は、イタリア社会に大きな波紋を投げ掛けながらひたすら成長を続け、現在では莫大(ばくだい)な資金を動かす組織になっている。
 創設者の死後、施設の経営は2人の息子に託された。しかし、兄弟は経営方針や資金をめぐって骨肉の争いを演じ、最高責任者の長男が先日、経営から身を引くと宣言してしまった。
 麻薬の罠(わな)にはまって苦しむ若者は、イタリアはもちろん世界中で後を絶たない。「サンパトリニアーノ」は、それらの若者たちにとっての大きな救いの一つである。創設者一族の思惑がどうであれ施設は存続しなければならないし、存続させなければならない、と僕を含む多くの人々が考えているはずである。
(仲宗根雅則、TVディレクター)