【島人の目】麻薬大国の恋人たち


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 先日、ベニス近くの村の結婚式に出席した。花婿はマルコ、55歳。花嫁はアンナ、54歳。マルコは元麻薬中毒患者。妻の幼なじみで、今では僕の親友でもある。
 イタリアの麻薬汚染は根深い。誰の身近にも麻薬問題を抱える人間が1人や2人は必ずいる。僕の周りにもマルコを含めて6人の患者や元患者がいる。

 マルコとアンナが10代で出会った時、彼は既に麻薬に溺れていた。アンナはマルコに寄り添い、世話を焼き、麻薬の罠(わな)から彼を救い出そうと必死の努力を続けた。彼女の献身的な介護の甲斐(かい)があって、マルコは麻薬中毒から解放され、地獄のふちから生還した。
 しかし、彼は麻薬をやめても精神的に不安定で、落ち着いた普通の暮らしができなかった。元麻薬中毒者によくあるパターンで、肉体的な依存症がなくなっても、精神的なそれからは容易に解放されずに苦しむのである。
 2人の息子をもうけながらも、彼らは結婚の決心がつかず、一時期は別れたりもした。マルコが落ち着き、アンナが彼と結婚しても良い、と感じ始めたのは40代も終わりのころだったという。
 2人の結婚を、特にアンナのために、僕は心から喜んでいる。長年マルコに尽くしてきたアンナは、とても女性的でありながら身内にきりりと強い芯を持っている。それは慈愛に満ちた母親的なものである。
 アンナはその強い心で、廃人への坂道を転がっていたマルコを支えて見事に更生させたのだ。穏やかなすごい女性がアンナなのである。
(仲宗根雅則、TVディレクター)