【島人の目】スレイブから市民権へ


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 昨年12月15日、ロサンゼルス郡モンテベロー市のクワイアットキャノン・ゴルフコースで、他の900人の市民権獲得者と一緒に晴れてアメリカ市民権を連邦判事から与えられたシャイマ・ホールさん(22)の姿があった。10年間スレイブ(奴隷)として惨めな生活から解放され、アメリカで「自由への息吹」をかみしめている一人の女性の喜びについてLAタイムズが報じた。

 エジプトの両親は、ホールさんが8歳の時にある夫妻に売った。彼女を買った夫妻は2年後にカリフォルニア州オレンジ郡アーバイン市に移った。値段は1カ月30ドルであった。ホールさんは料理、邸宅の掃除、洗濯と1日16時間働かされ、夜は窓のないガレージの壊れかけたソファで眠った。広々とした邸宅以外に出ること、学校へ行くこと、医者や歯医者に行くことは一切禁じられた。
 ホールさんはエジプトにいる兄弟姉妹、両親に会いたい一心で泣き続けた。そんな生活が10年間続いたのであった。しかし、やがて「青少年救世協会」の会員が彼女の話を耳にし、2年前に救助したのである。ホールさんを買った夫婦は逮捕された後にカイロへ強制送還された。
 ホールさんは現在リバーサイド郡でアウトレット・ストア(小売店)の販売主任に就いているが、悲惨な生活から抜け出ることができた恩返しをしたいと切に願っている。大学の学位を取るか、警察官に志望するかの選択をするようだ。
 ホールさんは「私の真の経歴が始まり、真の意味での人生のスタートが始まったのですから」と興奮気味に、しかし誇らしげにインタビューに答えたという。
 アメリカ連邦移民局の調査によると2010~11年の2年間で651人の人身売買があり、300人が逮捕された。全世界ではその数1200万人に上るとの報告がある。
 私はその新聞記事を読みながら実にアメリカ的なストーリーだと感激し「人は誰でも幸せになる権利があるのだ。くじけないで頑張ったホールさんに勇気づけられた」としみじみ思った。
(当銘貞夫米ロサンゼルス通信員)