【島人の目】イタリアのおせち料理


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 例年、年末から年始にかけて「イタリアにもおせち料理はありますか」とよく聞かれる。
 食の国イタリアの、豪華なおせち料理を期待する皆さんの、恒例の質問である。少し間延びしてしまうが、まだ正月(1月)中だとこじつけることにして、そのことに言及しておきたい。

 結論を先に言うと、とそにはじまって4種の食材が基本とされるおせち料理のような「型」のある正月料理はイタリアには存在しない。
 あえて言えば、大みそかの夜から新年にかけて供されるチェノーネ(大食事)のごちそうがイタリアのおせち料理ということになる。が、それは各家庭やレストラン等で好みの食材を好き勝手に用意するもので、定型はないのである。
 ただチェノーネには重要な決まりのようなものはある。それは食事の量がムチャクチャに多いということである。チェノーネ(大食事)という名前はまさにそこからきている。そこでは生ハムやサラミ類などの前菜を皮切りに、各種パスタや肉、魚介、野菜、スイーツなどのうまいイタリア料理が、ワインやシャンパンとともにこれでもか、これでもか、とばかりに大量に供される。
 一体どれくらいの量かというと、財政危機に苦しむイタリア政府が昨年末「全国のチェノーネで消費される飲食物の経済効果が危機を脱する起爆剤の一つとして作用してほしい」と正式にコメントしたほどの規模。
 皮肉にも、まさにその財政危機のせいで消費量は期待通りには伸びなかったが、それほどに豊富で豪華でにぎやかで「型破り」なのが、イタリのおせち料理なのである。
(仲宗根雅則、TVディレクター)