【島人の目】ちょっといい話


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 4月末に日本へ帰国する当日の話。ワシントンDC国際空港内の航空会社勤務の友人宅に行き、出勤ついでに飛行場まで連れて行ってもらう手はずだった。夫と共に自宅から車で北に2時間半ほどの友人宅に向かった。

 朝4時ごろに家を出て意気揚々とハイウエーを走っていたが、あと数マイルで到着という所で長い渋滞が続いた。何の騒ぎかパトカーが何台も止まっていた。交通事故ではなく何らかの事件のもよう。彼女との約束の時間は迫ってきて気はあせるばかり。最悪のことに夫は携帯電話を持たないし私は2日前に携帯電話をなくしてしまって連絡不能。
 結局、友人宅には30分も遅れて着き、もうすでに誰もいない状態だった。万事休すかと絶望的な気持ちになる。バージニア郊外の閑静な住宅地である。那覇の街のように少し通りに出れば流しのタクシーが捕まえられるわけではない。道には人っ子一人歩いていない。今すべきことは電話を借りてタクシーを呼ぶことだ。
 ご近所さんの助けを借りるしかないと判断。家と家がかなり離れていて広い庭を横切って左隣の家の玄関ドアのブザーを鳴らした。朝の7時すぎである。ここは銃の国アメリカ。人の敷地に一歩でも入れば住居侵入罪で訴えられ、銃で威嚇されても文句は言えない。果たしてドアを開けてもらえるかどうか。
 すぐにドアが開いた。中から出てきたのは中年の白人男性。事情を話すと満面に同情の表情を浮かべ、その人は言った。「私が飛行場まで送って行く」と。
 空港までの車中の30分、いろいろよもやま話で盛り上がった。その一家はニューヨーク州から最近引っ越して来たばかりで私の友人とはまだ面識がなかった。
 1カ月後、空港まで送ってくれた隣人にお礼にと沖縄のロゴ入りTシャツと北海道のクッキーのお土産を友人に託した。後日、友人からのメールで、その土産を持って隣人を訪ね初めてその一家と面識を持ったという。今回のハプニングがお隣同士の親睦にも役立ったのではとちょっといい気分になった。(米バージニア通信員)
(鈴木多美子)