【島人の目】イタリア危機こぼれ話


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 ヨーロッパの金融不安はとどまるところを知らずイタリアもその渦中にある。財政危機回避に必死のイタリア・モンティ首相は「国民が平等に痛みを分かち合う」をモットーにさまざまな改革を推し進めている。そのうちの一つが歴史的居住家屋、つまり貴族家への大幅な増税だ。

 フランス革命のような激烈な世直しが起こらなかったイタリアには、今でも古い貴族が所有する館などの歴史的建造物が無数に存在している。維持・管理に膨大な費用が掛かるそれらの城館は、本来ならほとんどが国によって管理されるべき歴史遺産や文化財だ。
 だが、イタリアはその大半が個人の支出によって保全されているのが実情だ。イタリア共和国は彼らの負担に応える形で、固定資産税を低く抑え、相続税もほぼゼロに近い優遇策を取ってきた。
 外から見れば裕福に見えるケースが多い旧家のほとんどは、昔からの蓄えを食いつぶしながら青息吐息で財産の維持管理をしている。固定資産税や相続税が増大したら、彼らは困窮して家を放棄し、やがて廃虚にもなるだろう。
 イタリアの世界遺産の登録件数は世界一。かつ地上にある文化遺産の40%がこの国に集中しているとされる。膨大な数のイタリアの歴史的遺産は、たとえそれが私有物であっても、最終的には国の財産だ。
 モンティ首相は財政危機を修正するべくイタリアをまともな方向に導いているように見える。しかし、一歩道を間違えると、国の文化遺産を破壊したトンデモ首相として、歴史に名を残す可能性も皆無とは言えない。
(仲宗根雅則、TVディレクター)