裸もあやふや、クセになる 舞台『ポリグラフ~嘘発見器~』


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▼東京芸術劇場で12日に幕を開けた『ポリグラフ~嘘発見器~』(東京芸術劇場)は、頭を空っぽにして眺めていると、クセになりそうな舞台だ。

▼構想・脚本はマリー・ブラッサール、ロベール・ルパージュ。ルパージュは、サーカスをアートに変えたと言われる「シルク・ドゥ・ソレイユ」の「KA」(ラスベガス常設公演)なども演出している多才な舞台芸術家、脚本家だ。「KA」はパフォーマーがいる舞台がほぼ垂直までせり上がり、さらに回転までしてしまうという度肝を抜く演目だ。今回はルパージュの戯曲を吹越満が演出。ダンサーの森山開次と、太田緑ロランス、吹越の3人芝居である。

▼オーディションでつかんだ役が、実際の事件で殺された女性の役だと知るカナダ・ケベックの女優ルーシー(太田)。殺された女性の元恋人で、当時は容疑者として嘘発見器のテストを受けた学生フランソワ(森山)。フランソワのポリグラフテストを担当した犯罪学者ディヴィッド(吹越)。偶然出会った3人の関係、言葉が絡み合っていく。というあらすじはあるが、それより、肉体、映像、光と影、韻律が、多彩な手法で交錯するのが愉快だ。いつもどこか、あやふやなまま。

▼太田も含めて一糸まとわぬ全裸で動き続ける場面もあるのだが、青い光だけを背景に浮かぶ肉体は、おぼろげな記憶のようで、生々しくはない。別の場面では、体脂肪率を教えてほしい森山の引き締まった身体が、厳しい体勢ながら、あり得ない遅さで倒れ落ちていく。ショーウィンドーの中で動く、洒落た仕掛けのような舞台だ。

▼もしも視点を思い切り引いたらなら、ショーウィンドーがあるのは、さながら誰かの脳内。あるいは、3人は巨大で透明なマトリョーシカの中にいて、どの層で演じているのかが定かではないような。各場面は断片のようにぶつ切りに並び、詩的で、時空をお構いなしに行き来する。きっと、上演を重ねるにつれもっと面白くなる。見るたび別の何かに気付く。(敬称略)
 (宮崎晃の「瀕死の私にエンタメを」=共同通信記者)

※東京公演は12月28日(金)まで。松本公演は2013年1月13日(日)~14日(月・祝日)まつもと市民芸術館。宮城公演は1月20日(日)えずこホール。大阪公演は1月26日(土)~27日(日)シアター・ドラマシティ。
(共同通信)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)

倒れている太田緑ロランスは生々しいが、舞台のテイストは写真左上の3人が醸す雰囲気に近い。
宮崎 晃