「〈流求国〉と〈南島〉」 沖縄史研究の評論書


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「〈流求国〉と〈南島〉」来間泰男著 日本経済評論社・3800円

 本書は、著者の「シリーズ 沖縄史を読み解く」の第二弾である。第一弾の『稲作の起源・伝来と“海上の道”』で、旧石器時代から縄文・弥生の時代-沖縄での貝塚時代までを検討した後を受けて、本書では、日本の古代史に対応する十世紀までを範囲としたとする。

 本書の構成は以下の通りである。第一章・首長国家群の誕生(弥生時代終末期)、第二章・大王の国家(古墳時代)、第三章・律令国家の誕生(飛鳥時代)、第四章・「流求国」は沖縄のことか(七世紀)、第五章・律令国家の展開(奈良時代)、第六章・『続日本紀』に現われる「南島」、第七章・律令国家の動揺と再編(平安時代前期)、第八章・摂関=藤原政権(平安中期)、第九章・十世紀までの沖縄諸島である。
 冒頭においた「はじめに」で、シリーズ1の前書の要点と補足を記し、本書のねらいを記し、九章の後に、詳細な「文献目録」(一~九章で言及した書籍と論文を網羅)とこのシリーズを書くこと(沖縄史を考えること)への著者自身の思いやこだわりを表明した「おわりに」をおいている。
 本書は沖縄古代史の研究書や概説書に見えるが、そうではない。シリーズ名のごとく、近年の沖縄史の研究書、論文を読み解き、その成果を比較検討し分析することを通して、現時点におけるより客観的な結論にたどりつくことを目指した書である。歴史研究の評論書となろうか。
 例えば四章の隋書「流求国」伝を扱った章だと、戦前期の真境名安興や比嘉春潮らの主張から、戦後の宮城栄昌、外間守善、松本雅明等々、近年の山里純一、安里進、田中史生等々二十数人の研究者の主張について、検討している。専門の農業経済史の知見も踏まえて、時に論拠薄弱として批判し、要検討、同意する等々と批評するのである。研究者にとっては何とも厄介な読者であり、評者である。自ら「非歴史家」を称する著者が、沖縄史を学び、理解するため、また一般の読者のために上梓したとする本書は、研究者にとっても看過できない書なのである。
 (田名真之・沖縄国際大学教授)
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 くりま・やすお 1941年那覇市生まれ。沖縄国際大学名誉教授。著書に「戦後沖縄の歴史」「沖縄経済の幻想と現実」など

“流求国”と“南島”―古代の日本史と沖縄史 (シリーズ沖縄史を読み解く)
来間 泰男
日本経済評論社
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