地位協定「改善」限界 米兵凶悪事件不拘束


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日米地位協定が問題となった県内の主な事件・事故

「取り決め」機能不全に/日米は改定協議回避
 1995年の少女暴行事件をきっかけに運用改善された日米地位協定の取り決めが機能不全に陥りかけている。強姦(ごうかん)罪で摘発した米兵被疑者について、起訴前の身柄引き渡しを求めず、8割強を不拘束のままで事件処理していた。日本政府は地位協定の抜本的改定を求める沖縄側に対し、「運用改善で対応する」として米側との再協議に後ろ向きだが、世論の反発を受けて95年にまとめた「運用改善」さえ、完全に権利を行使できていない弱腰の姿勢が浮き彫りになった。95年の運用改善は、起訴前の身柄引き渡しが「殺人」「強姦」にのみ限定されている上、実際の身柄引き渡しについても米側の裁量が優先されることから県民の根強い不満が残ったままだ。

 仲井真弘多県知事も2012年10月に本島中部で発生した米海軍兵による集団女性暴行致傷事件を受け、相次ぐ米軍関係者絡みの犯罪の根底に地位協定による米軍人・軍属の身分の保障があるとの認識を強めた。知事は、10月の訪米時に国務省のキャンベル国務次官補、国防総省のリッパート国防次官補に対して地位協定の抜本的な見直しを訴えた。両次官補は会談の場でこそ「長官に報告する」と神妙な面持ちで応じたが、要請に対する回答はなく、地位協定に関する議論を避けたい米側の思惑が透けて見えた。
 国防総省は本紙の取材に「やむを得ない相当な理由がない限りは(改正に向けた)再交渉は避けている」と述べるなど、「問題なし」との姿勢だ。
 米側のこうした認識を支えているのは、「改善の積み重ねを続けてきたし、積み重ねが大変重要だ」(岸田文雄外相)として、沖縄側の抜本的改定を求める声に背を向けている日本政府だ。
 外務省のホームページによると、95年の運用改善以降、起訴前の身柄引き渡しを要求したのは、96年に長崎県で発生した強盗殺人未遂事件をはじめ、強盗殺人事件で2人、女性暴行事件の3人、同未遂事件の1人の計6人で、ほとんどが全国レベルで注目を集めた事件。「殺人」「強姦」の被疑者計33人のほとんどは主権者の国民が知らないまま、不拘束で事件処理されてきたのが実態だ。米側に正当な権利を主張することさえも恐れ、自国の被害者や遺族感情をないがしろにしてきた印象は拭えない。
 岸田外相は12月27日未明の会見で「領土主権に関わる問題については断固たる態度で臨んでいかなければならない」と述べ、尖閣諸島や竹島をめぐり中国や韓国に対し毅然(きぜん)とした態度で対応する姿勢を示したが、米国に対しても日本側の主権を断固として主張できるか。安倍政権の「主権」に対する本気度が試されている。(ワシントン特派員・松堂秀樹)