『虐待と微笑』 対テロ戦争で病む米国


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『虐待と微笑』吉岡攻著 講談社・1800円

 イラクのアブレイブ刑務所で起きた米兵によるイラク人捕虜虐待事件は世界に衝撃を与えた。女性兵士が犬の首輪で裸の捕虜を引き回している場面や裸の捕虜たちの「人間ピラミッド」の後ろで笑っている米兵たちの写真は、対テロ戦争で理性を失ったアメリカの姿そのものだった。

 米国は、アフガニスタンでタリバン政権を倒した後、テロを支援し、大量破壊兵器を隠し持っているとの理由で、イラクに侵攻した。どちらの疑惑も事実でなかったことが明らかになった戦後も、米軍はイラク内にテロ容疑者の収容所を保持した。対テロ戦争を正当化するための「証拠」探しのためである。
 著者の吉岡攻は、捕虜虐待事件にかかわり、軍法会議で有罪判決を受けた若い兵士たちを米国各地に訪ねた。トレーラーハウスで育った少女は地元の高校卒業後、軍隊に入り、イラクに派遣され、そこで後に「虐待の女王」と呼ばれるようになる行動に加担した。アメリカの田舎町出身の若者たちがなぜあのようなことをしたのか。
 もともと存在しない証拠探しのため拷問が日常になってしまった状況で、若い兵士たちは上部からの指示と思い違いしていたという。結果的に彼らは軍当局からも「7個の腐ったリンゴ」と烙印(らくいん)を押される羽目になった。
 著者は、ブッシュ大統領、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官ら政府首脳、軍高官、政治家、地域共同体を含むアメリカ社会そのものが対テロ戦争のなかで、理性を失っていく姿を、若い兵士たちや上官とのインタビューを通して、浮き彫りにしている。
 吉岡は、9・11同時多発テロからウサマ・ビンラディン殺害までの期間、イラク、アフガニスタン、キューバのアルカイダ収容施設など重要な現場を踏んでいるので、彼の報告と分析には説得力がある。彼の報道写真家としての駆け出しは、コザ暴動など米軍統治下の沖縄取材だった。半世紀近くアメリカの姿を見てきた。(高嶺朝一・元新聞記者)
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 よしおか・こう 1944年、長野県生まれ。テレビ・ジャーナリスト、大学卒業後、写真家として沖縄在住。写真集『沖縄69―70』などがある。

虐待と微笑 裏切られた兵士たちの戦争
吉岡 攻
講談社
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