沖縄県で数少ない海藻・海草研究者の当真武博士のライフワークの成果が、オールカラー版で分かりやすく『沖縄の海藻と海草』として刊行された。一般に海藻(草)類は、動物に比べて地味であるが、海洋生態系で栄養潮類と太陽エネルギーで光合成を行い、海洋生物生産の最も重要な役割を演じている。
本書は、第1部自然環境、第2部食用海藻の養殖、第3部沖縄の海草250種―の3部構成になっている。第1部では、第1章~5章からなる。第1章は海藻・海草を概観し、第2~5章には、沖縄島北部、中部、南部、久米島、西表島のそれぞれの海藻・海草の種類・分布・生態を解説しながら、漁港や埋め立てなどの人為的な環境改変による影響について述べられている。
第2部では、著者の持論「海の植物を指標にして沿岸環境を読み解く方法」を提案し、護岸造営・漁港・護岸消波堤・埋め立て等の諸開発に当たって、海藻・海草の生態に充分な配慮が必要とし、共存を呼び掛けている。沖縄県中城湾港マリンタウン計画では、食用海藻ヒジキは北東季節風が生育の必要条件だが、防波堤の造成のため生育場が静穏化し、一部が消失した。海藻類は周辺環境を推し量る物差しの役目を果たすと強調する。
著者は、オキナワモズク・モズク・クビレズタ(海ぶどう)・オゴノリ類など食用海藻類養殖の技術開発に多大な業績を挙げ、沖縄の水産業を刷新した。応用するには、基礎的な調査研究が不可欠であるが、著者は沖縄県水産試験場で海藻類の基礎から応用の研究に従事し、少ない研究費で一番の成果を上げている。近年、モズク類からフコイダンやフコキサンチンなど抗がん、抗腫瘍、抗糖尿病、抗肥満などの機能性物質が発見され、注目されている。大型海藻・海草(250種)のカラー写真は、同定に便利である。
本書は、生物学や有機化学を目指す者、養殖業者、海洋調査をする者、海洋開発業者、行政関係者などが座右の書として利用する価値がある。
(諸喜田茂充・琉球大学名誉教授)
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とうま・たけし 1941年沖縄市生まれ。2002年、県海洋深層水研究所初代所長を退職。琉球大学非常勤講師、県環境影響評価委員などを務める。