組踊の魅力凝縮 長編敵討ち物「矢蔵之比屋」


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終盤、虎千代・山戸やその臣下らが敵の矢蔵之比屋を縛り上げる場面=9日、浦添市の国立劇場おきなわ

 国立劇場おきなわ企画の組踊公演「矢蔵之比屋(やぐらぬひゃー)」(総監・立方指導=親泊久玄、地謡指導=照喜名朝一)が9日、同劇場で行われた。登場人物が16人と多く、約2時間の長編を前半と後半に分けて上演した。

ベテランから中堅・若手までが出演し立ち回りやこっけいな間の者も含め見どころ、聴きどころの多い敵討ち物を熱演した。
 幸地城主の矢蔵之比屋(神谷武史)は津堅田の按司と棚原の按司を討ち滅ぼす。殺された両按司の息子である津堅田の若按司・山戸(東江裕吉)と棚原の若按司・虎千代(宮城茂雄)が敵討ちを果たす筋立て。
 地謡は歌三線に仲嶺伸吾、照喜名朝國、與那國太介、箏に池間北斗、笛に入嵩西諭、胡弓に岸本隼人、太鼓に石嶺哲。
 矢蔵之比屋は津堅田、棚原の両按司を滅ぼし、棚原按司の妻子(妻・乙樽=佐辺良和、息子・虎千代=宮城)も捕らえたものの、美しい乙樽に一目ぼれ。虎千代の命を助けることを条件に乙樽との結婚を無理矢理に承諾させることに成功すると、うちわをあおいで「したいー、したい」(でかした)と大喜び。色欲に目がくらんだ矢蔵之比屋の様子を神谷が表情豊かに表現した。
 佐辺は一度は矢蔵之比屋の求婚を断るものの、息子の命を助けるためにやむなく承諾する乙樽の苦悩をにじませた。後半の冒頭で登場した間の者・平良役の大湾三瑠の語り口はユーモアたっぷり。「したいー、したい」と矢蔵之比屋の様子を大きな動きで再現するなど、物まねも交えて前半の展開を説明し、笑いを誘った。
 山戸役の東江、虎千代役の宮城は臣下を前に躍動感あふれる長刀踊りを披露。臣下らを引き連れて敵討ちへ向かう場面で「瀧落管攪」の曲に乗せ、右手右足、左手左足を同時に前へ出す独特の歩行法「寄足」を披露する動きも興味深かった。
 全体として役柄に合わせた唱えや音楽が舞台を引き立てたが、一部でせりふが円滑に唱えられていないように感じる場面もあったのは気になった。終盤、両若按司らは矢蔵之比屋を縛り上げ「生き責めを加え」「(亡き主君の墓前で)一寸刻みにして御祀りしましょう」などのせりふを残し退場。過激さも感じる作品だった。(古堅一樹)