『〈復帰〉40年の沖縄と日本』 依存する日本人への問い


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
『〈復帰〉40年の沖縄と日本』西谷修編 せりか書房・2000円

 「復帰」40年目が間もなく終わろうとしていた昨年12月末、本書はその「節目」に滑り込むように公刊され沖縄に届けられた。だが本書を読み進めると分かるが、6人の著者たちは単に〈40年〉に符節を合わせ著したのではない。沖縄の植民地主義的な現在性があまりにもあらわとなった「節目」だからこそ、そこにたじろぎつつ、沖縄の言語的な苦悩やその思想性との応答を試みていたのだ。

 植民地主義における言語的な抑圧の重層構造は深刻である。著者らが沖縄の言語植民地主義の状況に介入しようと試みるとき、その手掛かりとして取り上げられたのが、新川明、岡本恵徳、川満信一らの〈反復帰論〉の思想とその作品群である。また既成の時間軸と空間軸を超える反復帰論の思想的求心力と遠心力を受け継ぐ者として、仲里効、高良勉、目取真俊らの作品との応答が試みられる。
 その意味において、本書で唯一の沖縄人の著者である仲里効は、重要な楔(くさび)となっている。仲里の記述は、反復帰論と吉本隆明の「異族論」「接木(グラフト)国家論」との応答を介した、沖縄の自立的思想のあり方に対する〈檄〉と読むことができる。だがそれは、東アジアとの緊張関係のもとで沖縄に依存し続ける、日本人の自立のあり方に対する〈異族〉からの〈檄〉のようでもある。
 よって本書タイトルにある「沖縄と日本」という表現の意味は、編著者の西谷修の次の言葉によって生きてくる。「沖縄の問題とは、沖縄という問題ではなく、日本と沖縄との関係がわれわれに突きつけてくるわれわれ自身の問題なのである」
 本書の後半あたりは、沖縄が言語的苦悩の果てに編み出した多様な表現技法が引用されつつ、政治思想やフランス領マルティニックとの参照関係において、やや図式的に描かれ結論を急ぎ過ぎている感は否めない。だが、そのことを勘案しても、本書は〈40年〉の振幅を超えた沖縄の思想的な可能性と、日本社会を含む東アジアとの関係性を編み直していくうえで重要な手掛かりとなるはずだ。
(桃原一彦・大学教員)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 にしたに・おさむ 東京外語大学大学院総合国際学研究院教授。専門はフランス現代思想、戦争論、世界史論。著書に『〈テロル〉との戦争』『理性の探求』など。

“復帰”40年の沖縄と日本―自立の鉱脈を掘る
せりか書房
売り上げランキング: 341,997