名護漁協埋め立て同意 前政権から交渉、早期妥結へ神経戦


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設をめぐり、名護漁業協同組合は、総会で公有水面埋め立てへの同意を決めたが、政府との漁業補償交渉がまとまるまで同意書を提出しない方針だ。政府の提示額と漁協の要求には開きがある。辺野古支部が振興策として要求を検討している辺野古漁港移転や養殖施設整備なども合意できるか不透明だ。

一見、手続きが進んだように見えるが、政府が肝心の同意書を得るには難航が予想される。
 「(交渉を)一任されたことに重い責任を感じている」。古波蔵廣組合長は総会後、満足げな表情を浮かべた。古波蔵氏は、移設を条件付きで容認する辺野古区行政委員会の普天間代替施設等対策特別委員会委員長も務める。民主党政権が辺野古移設に回帰した後、交渉委員会を設け政府と水面下で交渉するなど、着々と準備してきた。
 同漁協は再編交付金の創設時、名護市に辺野古漁港移転や養殖施設整備などを要望したが、市は「非現実的」として対応しなかった。今回も政府が了解するかは不透明だ。
 政府は3月末に県に埋め立て申請する方向で検討している。同意書の添付は埋め立て申請時には義務付けられてはいないが、知事の承認を得る段階では欠かせない。一方、古波蔵氏は政府が同意書を得ないまま申請することについて「勝手にやってください。損するのは国だ」と突き放し、交渉では漁協の立場が有利になると強調する。
 防衛省内には同意書を受け取った後に申請すべきだとの考えもある。防衛省幹部は「漁協が組合員をまとめ、同意してくれた。同意書が出る前に見切り発車で申請することは、かえって漁協との関係にとってよくない」と指摘。有利な条件で妥結したい漁協と早期に埋め立て申請したい政府の神経戦が始まっている。
 政府内には、名護漁協が同意することで、移設反対が根強い県内世論の風向きを変えたいとの思惑も見え隠れする。だが、県幹部は県外を求める根拠に「地元の反対」を挙げていることについて「(地元とは)名護市や市議会、県内市町村と答弁してきた」と説明。漁協の同意によって、県が「承認」の判断を下す見通しは極めて厳しい。
(伊佐尚記、問山栄恵)