返還・統合計画 政府、見切り発車 国民向けに「進展」演出


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 日米両政府は5日、米軍普天間飛行場をはじめ嘉手納基地より南の6施設・区域の返還時期を明記した統合計画を発表した。安倍晋三首相がルース駐日米大使と共同発表に臨むなど国民向けに沖縄の基地負担軽減に取り組む政権の姿勢を大々的にアピールした。だが普天間返還は県内移設が前提とされたことに沖縄は重ねて反発。県の理解を得られるめども立たない中、「見切り発車」で踏み切った。普天間以外の5施設・区域の返還に関しても、米国の国防費削減の影響で在沖米海兵隊のグアム移転に不透明さが増し、実現性を疑問視する声が上がる。

 「目に見える形で、沖縄の負担軽減が進むことになる。なかなか進まなかった課題に端緒がついたのは、喜ばしい限りだ」
 午後6時すぎの首相官邸。ルース大使、リッパート国防次官補らに対し、安倍首相はこう語り掛け笑みを浮かべた。
 1996年、橋本龍太郎首相とモンデール駐日大使が普天間返還合意を発表した場面をほうふつさせる。参院選を控え、国民向けのアピールにこだわった官邸の思惑が透けて見えた。

米側抵抗
 「本当にできるのか」。 返還時期の明記に強いこだわりをみせる日本側に米側の担当者は何度も問い掛けた。県側が受け入れる見通しの立たない現状での返還時期明示に難色を示したためだ。結局、返還年度の明記については全て「またはその後」とただし書きがついた表現で落ち着いた。
 政府関係者は時期の明記に「長年の懸案となっている普天間移設をはじめ、嘉手納以南の返還を進めていくという安倍政権の覚悟の表れだ」と強調した。だが別の関係者は「実現できないかもしれないことを紙に残すと政権のアキレスけんになる」と懸念を示す。

普天間とセット
 「日米の合意に沿って、責任を持って進めていかなければならない」。米側が同席する会見で安倍首相は繰り返し述べた。普天間基地の移設が進まない中で、ほかの施設の返還時期を明示することに難色を示した米側に対し、普天間飛行場の県内移設を進める姿勢を強くアピールした。
 岸田文雄外相も「米軍が政治的に持続可能で、かつ効果的な体制を敷くことにもつながる」と述べ、米軍の基地機能は温存されるとし、米側に配慮を見せた。
 一方、県は県外移設を政府が受け入れるための論理構成を再構築し、議論を進めていく構えだ。県幹部は統合計画で県内移設が示されたことを「(住民理解がないまま)進めると余計に時間がかかる。政府や官僚はリアリズムが欠けている」と冷ややかで、実現可能性を疑問視する。
 県内は県外移設を求める仲井真弘多知事に同調し、41市町村長が安倍首相に県内移設断念の建白書を提出するなど移設反対でまとまっている。今回の計画で「容認」へと流れが変わる状況には全くない。
 「普天間移設が進めば、嘉手納以南の多くの土地が返ってくる」。政府関係者は沖縄側の妥協を促す。
 来月からは牧港補給地区内の北側侵入路の測量に入る。返還作業を加速することで跡地開発や基地従業員の雇用確保も必要となり、地元が政府に頼らざるを得なくなるのではとの思惑も透けて見える。安倍政権が「県内は事実上不可能」とする知事の翻意へ引き続き全力を挙げることにも、変化の様子はない。
 (問山栄恵、池田哲平)