【島人の目】老大統領の真実


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 去る4月20日、イタリア議会は87歳のジョルジョ・ナポリターノ大統領を再選した。人気の高い同大統領には2期目を期待する声もあったが、彼は高齢を理由に出馬を強く固辞し続けてきた。

 大統領職を務めているくらいだから、もちろん心身ともに年を取っても元気がよく、若々しいが、6月には88歳を迎える彼の「再選は勘弁してほしい」という思いは誰でも理解できるから、ナポリターノ大統領の2期目の芽は自然消滅していた。
 ところが大統領選挙は紛糾。どの候補者も当選に必要な票数に届かず暗礁に乗り上げた。イタリアでは財政危機に端を発した政治混迷が続き、ことし2月に行われた総選挙後も誰も政権を樹立できない。つまりイタリア共和国には政府が事実上、存在しないという異常事態に陥っていた。勢力が拮抗(きっこう)する議会の3大会派がいがみ合いを続けた結果である。
 せめて国をまとめる大統領でもいないとイタリア共和国は崩壊しかねない。絶体絶命のピンチの中で、議会はナポリターノ大統領に泣きついて2期目への出馬を懇願。誠実を絵に描いたような言動で知られる大統領は「仕方がない。私には国に対する責任がある」と悲痛な胸の内を告白して出馬に踏み切り、圧倒的な支持を得た。
 ここから7年の任期を終える頃には、ほぼ95歳になる同大統領は、政治混乱が収束した暁には途中退位するとみられている。だが、自己犠牲の発露以外の何ものでもない、勇気ある決断をした老大統領の真情に、イタリア国民の多くは深い敬意を表している。
(仲宗根雅則、TVディレクター)