本書は文部科学省の「全国学力・学習状況調査」を活用して、沖縄の子どもたちの学力向上への道を解き明かした待望の書である。しかも、学校ではなく家庭、子どもではなく親、勉強ではなく生活の仕方こそ学力向上のカギであることを証明した野心作である。そのユニークさのエッセンスを紹介しよう。
沖縄の学力の低さは以前から知られていた。だが同時に、勉強はできなくても体力は負けない。みんな優しくて人間性は豊か。このような沖縄の子どもの育ちを擁護する楽観論もよく聞かれた。これが間違った認識であることを、著者は調査結果を駆使して明快に実証する。
実は低いのは学力だけではない。体力やモラルも下位である。これが調査結果の示す沖縄の実像。「知」「徳」「体」の土台は一つ。その改善なくして学力向上を望めない。逆に改めればすべて良くなる。土台とは何か。家庭での生活習慣である。早く寝て、早く起きて、朝ご飯を食べる。これを毎日続ければ、学力も体力もモラルも上向きになる。沖縄と学力日本一・秋田の調査結果を比較した結論である。
論証の明確さと処方の具体性は痛快でさえある。なぜか。著者自身の実践による検証を経ているからである。
その一つは、沖縄の小・中学校に自ら出向き、それぞれの学校の調査結果を用いて、保護者の皆さんと対話することから生まれた診断であること。その治療の処方箋は、沖縄の生活実感に棹(さお)さす言葉でつづられる。
もう一つは、沖縄の子として生まれ育つ3人の子どもの父親としての実践。数値の背後にある沖縄の家庭生活の課題が、沖縄の日常を懸命に生きる心によりそう言葉で語られる。その改善策が、3児の父の優しさに包まれた警句とともに示される。
学力調査をこれほど生かした書を知らない。学力最下位というデータをランキングの道具ではなく、子どもの可能性の扉を開く準備に活用する。沖縄の親だけでなく、子どもの未来に責任をもつべき全国の大人に読んでもらいたい書である。
(馬居政幸・静岡大学教授)
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にしもと・ひろき 1969年生まれ。琉球大・大学教育センター・准教授。専門は教育社会学、教育心理学。学力問題を中心に小中高校生の調査研究を行っている。