学徒の戦 伝えたい 興南学園元理事長、知花孝弘さん


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興南学園の新入生に20年間贈り続ける「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」を手に、平和への思いを語る知花孝弘弁護士=那覇市の真喜屋法律事務所

 元興南学園理事長で、真喜屋法律事務所弁護士の知花孝弘さん(78)は、20年前から毎年欠かさず、興南学園の新入生全員に一冊の文庫本を贈り続けている。本の名は「ひめゆりの塔をめぐる人々の手記」。ひめゆり学徒隊の引率教員だった仲宗根政善氏が同学徒隊生存者の手記をまとめた記録の書だ。

知花さんは「戦火に倒れた当時の学徒たちと同じ年齢の高校生に読んでほしい」と、熱い思いを語る。
 1985年に興南学園の理事長に就任し、2003年に退任した。在任中から自費で本を贈り続け、今年で20年を迎えた。贈呈する全ての本にスタンプを押している。「人が人を殺すという戦争の悲惨、残虐、命の尊さ、平和のありがたさを読み取り、人生を考える糧としてもらいたい」と、生徒一人一人にメッセージを込める。
 卒業生から「自分と同じ年齢の人が戦場に行ったことを知り、何でもない日常の尊さを知った。本に出会えてよかった」との感想が寄せられたと、うれしそうに語る。「苦しい歴史をくぐり抜けた沖縄には、強さが備わっているはず。過去の歴史を将来への教訓にして、沖縄の未来を見据えてほしい」と、若者たちに希望をつなぐ。
 自身も沖縄戦体験者で、10歳のころ、父と一緒に沖縄本島北部の山中を逃げ回った。日本兵にスパイと疑われ、脅された経験もある。家族は全員無事だったが、命からがら生き延びた戦争の記憶は脳裏に焼き付いている。教員だった父母が戦後、「教え子を死なせてしまった」と悔やむ姿も忘れられない。「戦争は全てを奪う。命に代えられるものはないんだ。戦争だけはやってはいけない」と、言葉をかみしめた。(赤嶺玲子)