論説担当者の福島取材記 複合震災の猛威まざまざ


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 共同通信加盟各紙の論説委員と共に東京電力福島第1原発の事故現場や被災地を視察した。大地震、大津波を引き金にした複合震災の猛威を見せつけられ、福島支援の在り方を考えさせられた。

■問われる企業倫理
 福島は今なお「震災中」だ。原発周辺は作業関係者を除き人けがない。時間が止まっているかのように放置された倒壊家屋や商業施設、荒れ放題の田畑などに胸が締め付けられた。地元紙の福島民報と福島民友も、震災や原発のニュースに多くの紙面を割いていた。
 原発構内では、東電スタッフから廃炉に向けた作業の進ちょく状況や、漏出が問題化した放射性物質を含む汚染水の貯蔵、浄化処理などについて説明を受けた。
 バスの中から水素爆発で破壊された原子炉建屋を見学。連日3千人もの作業員を投入しているが、2年3カ月を経ても残骸がそのままの箇所がある。事故当時の惨状が思い浮かんだ。
 取材前から注目していたのは、過酷な作業を担う人材の確保を含め、東電が廃炉に向けた企業責任をどんな表現で説明するかだった。
 東電福島本社の石崎芳行代表は視察団への説明を「国民の皆さまにご不安とご負担をかけ、おわび申し上げる」との謝罪で始めた。
 原発立地県の地方紙からは廃炉に向けた技術的な問題や、原発事業に対する住民の信頼を損なったことへの責任を問う指摘があった。
 東電の現地責任者は「地域の復興、再生にも大きな責任がある。やれることは何でも逃げずにやる」と述べた。東電の企業としての責任と倫理観は、損害賠償訴訟を含め地域住民への誠実な態度でこそ問われよう。

■明日への希望
 廃炉は数十年に及ぶ難事業だ。防護服姿の作業員とも数多く擦れ違った。使命感と疲労感がないまぜになったような姿には頭が下がった。着実な廃炉には、作業員への健康や精神面への持続的なサポートが不可欠だとあらためて実感した。
 原発取材に先立ち、いわき市の渡辺敬夫市長やフラガールで知られる「スパリゾートハワイアンズ」を経営する常磐興産の坂本征夫顧問らからも地域再生にかける意気込みを聞いた。
 フラガールのリーダー・モアナ梨江さんは、県民から「福島復興のシンボル」と評価され、踊り子として誇りを再確認したという。躍動感あふれるフラガールの舞台に、明日への希望を垣間見た。国民の福島への持続的な支援の在り方が問われているとも感じた。
 原発震災が進行形であるにも関わらず、原発の再稼働や輸出を推し進めるこの国の危うさについても、自問自答せざるを得なかった。(論説委員長・潮平芳和)