終戦から今年で68年を迎え、戦争体験者の高齢化などで記憶の風化を懸念する声が高まる中、戦争を今にもつながる問題と捉え、その実相に迫ろうとする若者たちも現れている。沖縄戦で亡くなった県立一中生徒の遺品などを展示する「一中学徒隊資料展示室」(那覇市)では、大田光さん(24)=那覇市=が2012年から説明員を務める。
「過去のものにせず、当事者意識で沖縄戦を知ってほしい」と来場者に訴え、体験の継承を誓う。
大田さんは大阪府出身。福岡県の大学に通っていた10年の初めごろ、卒業論文のテーマを探している時に沖縄戦に関心を持った。「本土防衛のために沖縄が捨て石にされたことを知らず、ショックだった。知らなければいけないと思った」
沖縄で調査する中、一中学徒隊資料展示室に立ち寄った。ある学徒の遺書は「自分は思い残すことはない」としたためながらも「もう一度家族の顔を見たくてたまらない」とも記す。揺れる心が行間ににじむ。「彼らはどんな思いで死んだのか」。疑問が募り、学徒に注目するようになる。
その後、資料展示室との縁で元学徒の男性に糸満市摩文仁を案内してもらった。男性は、自ら渡した手りゅう弾で友人が命を絶った体験を話した。「生きる上で、こんなに悲しいことはない」。戦争の不条理さを痛感した。「卒論だけで終わってはいけない」と学びの中で、伝える側に立つ決意が芽生えた。
11年3月に大学を卒業し、沖縄に転居した。アルバイトをしながら時間を工面し、説明員や平和ガイドに就く。元男子学徒への聞き取りも続けている。
一中の後身の県立首里高校では毎年6月、1年生を対象に平和学習に取り組んでいる。今年、大田さんは生徒を受け持ち一中健児之塔や資料展示室を案内した。
「今は戦後だと思いますか」。生徒に問い掛ける。「未来から見れば、戦前かもしれない。戦争を繰り返さない保障はどこにもない。だからこそ知るのです」と訴える。
「語られていない体験はたくさんある。7月以降は聞き取りに力を注ぎたい」。まっすぐな目で言葉に力を込めた。(小波津智也)