『桜姫』 お色気満載のパンクな時代劇 


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 『探偵はBARにいる』シリーズの橋本一監督が、鶴屋南北の歌舞伎『桜姫東文章』を大胆にアレンジし、お色気満載のパンクな時代劇に仕立てた。高家の美しく可憐な娘が、自分の純潔を無理矢理奪った悪党に恋をし、彼に会うために遊女に身を落とす話だ。“桜姫”だけに、桜が重要な役割を担っている。

 桜といえば、ほとんどの人は淡いピンク色を思い浮かべるだろうが、スクリーンで見る桜は、その多くが白い。種類や光の加減にもよるが、本物の桜を撮影すると、どうしても白っぽく映るから。故に、一流の監督は人工の桜を使ってでも桜らしい色にこだわる。
 ところが、本作の冒頭、満開の桜に囲まれた桜姫の登場シーンでは、桜は白い。しかも、明らかにCGで描かれた花弁までもが白いのだ。同時に映る着物の絵柄の桜が強烈なピンクだけに違和感を覚えるが、その理由は、ラスト、冒頭と同じ場所に桜姫が再び立った時に明らかになる。この時の桜の色はピンク。つまり橋本監督は、「白い桜=処女性」から「桜らしい桜=成熟した大人の女性」への桜姫の変化を、“繰り返し”という映画的な手法で表現していたのだ。
 今の時代、彼のようにサスペンスや時代劇といったジャンル映画の枠組みを守りつつ、自らの作家性を刻印できる職人監督は、貴重である。例えば、往年のハリウッドのヒチコックやハワード・ホークスがそうだったように。★★★★☆(外山真也)

 【データ】
監督:橋本一
出演:日南響子、青木崇高、でんでん
6月29日(土)から全国公開
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外山真也のプロフィル
 とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)

(C)2013「桜姫」製作委員会
外山 真也