テレンス・スタンプ主演のイギリス映画だ。前半は、72歳の頑固ジジイが長年連れ添った最愛の妻を看取る話で、後半は、彼が息子との確執を乗り越えて人生の輝きを取り戻すまでが描かれる。
早々に妻が余命を告げられる展開は切ないけれど、見終わった後には不思議と爽快な気分になれる映画だ。それは、妻が人生の最後に情熱を傾けるシニア合唱団“年金ズ”のポップで悪戯心にあふれた歌唱シーンと、無口で気難しい主人公のキャラクターが、お涙ちょうだいの抑止力になっているためだろう。
監督は、これが日本初お目見えの新鋭ポール・アンドリュー・ウィリアムズ。大胆な省略を効かせ、何を見せて何を見せないかを心得た語り口に、作家性が息づいている。とりわけ、妻の死から葬儀へと至る一連の展開が秀逸。命の灯が消えるかのように外灯が点滅する自宅の外観カットから、いきなりベッドで目を見開いた妻の横顔のアップへと切り替わるカット割りが、妻の臨終を告げ、主人公の嘆き悲しむ声をドア越しに耳にすると、もう次のカットは雨の日の葬儀となる。簡潔なのに、否、簡潔だからこそ情感に満ちた名シーンと言える。
これが4本目の監督作とのこと。ぜひ過去作も日本公開してほしい。★★★★★(外山真也)
【データ】
監督・脚本:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
出演:テレンス・スタンプ、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、ジェマ・アータートン
6月28日(金)から東京のTOHOシネマズシャンテ、7月5日(金)から全国公開
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外山真也のプロフィル
とやま・しんや 映画ライター&時々編集者。1966年愛知県出身。学生時代はヨーロッパ映画を中心に見ていたが、情報誌の仕事が長かったため、今は洋の東西を問わず、単館系からハリウッドまで幅広くが信条。主な執筆媒体:月刊TVfan、日本映画navi、ぴあ各誌。
(共同通信)
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