『昭和三十年代演習』 関川夏央著


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あのころの日本を解剖
 現代史ブームだ。領土問題の影響だろうか。学校ではまともに教えない昭和史の概説書がベストセラーとなり、書店には近現代史の特設コーナーが設けられている。昭和30年代に特化して時代を語る本書も、そのトレンドに位置づけられる。

 ただし概説書ではない。当時その影響力が健在だった文学と映画に主な材を取り、現代日本の原点とも言うべき戦後の「ある10年間」の時代精神を描いて見せた。
 松本清張、三島由紀夫、フランソワーズ・サガン、石原裕次郎、吉永小百合、堀江謙一。時代のアイコンを並べながら、著者は昭和30年代を「貧乏くさくて、可憐で、恨みがましい時代」「不便さと『教養』が共存した時代」「社会主義国=平和勢力という題目を信じようと努めた時代」「世界再参加を痛切に望んでいた時代」などと規定する。
 本書の魅力はこうした時代への洞察とともに、徹底した取材によって作品の矛盾やウソをあばき、事件の背景を探って真相をあぶり出すその手つきにある。当時を描いた映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で年末の上野発青森行きの列車内があんなにすいているはずがないとか、2時間ドラマにおける崖上での犯行告白スタイルは清張の『ゼロの焦点』に源流があるとか、とにかく細部が面白い。
 しかし、それもまたフィクションとしての昭和を「古き良き時代」として振り返る旧世代の懐古趣味なのかもしれない。本書を楽しんで読むのは、やはり圧倒的におじさんが多いと思う。
 (岩波書店 1500円+税)=片岡義博
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片岡義博のプロフィル
 かたおか・よしひろ 1962年生まれ。共同通信社文化部記者を経て2007年フリーに。共著に『明日がわかるキーワード年表』。日本の伝統文化の奥深さに驚嘆する日々。歳とったのかな。たかが本、されど本。そのあわいを楽しむレビューをめざし、いざ!
(共同通信)

昭和三十年代 演習
昭和三十年代 演習

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関川 夏央
岩波書店
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『昭和三十年代演習』 関川夏央著
片岡義博