『ひろしま 石内都・遺されたものたち』


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戦争の苦い記憶を呼び起こす写真家の活動
 日本で生まれ育った米国人リンダ・ホーグランド監督は、母国が広島と長崎に原爆投下した事実を重く受け止め、戦争をテーマにした作品を作り続けている。映画『TOKKO/特攻』のプロデュースを皮切りに、アーティストの作品と証言を通して日米関係を問い直すドキュメンタリー『ANPO』を初監督した。

そして監督第2作は、広島平和記念資料館に保存されている被爆者の遺品を写真に収めている写真家・石内都さんの活動に密着。撮影風景から、その写真展が開催されたカナダ・バンクーバーまで追う。
 海を越えた石内さんの写真は、現地の人にも様々な感情を想起させる。原爆に使用されたウランは、カナダの先住民によって採掘されたもの。現地男性は「米国・カナダ両政府は謝罪していないが、広島に行って謝罪した」と語る。日系カナダ人は、自分も被爆者だと告白した。そして戦中、日本人から迫害を受けた韓国人は複雑な思いを吐露する。戦争の記憶は誰にとっても苦い。
 前作『ANPO』はいささか詰め込み過ぎで言葉とアートを噛みしめる時間がなかったが、今回は石内さんの作品をじっくり見せる。写真とは思えぬ生々しさを感じる遺品と向き合い、持ち主の人生を思って涙が溢れた。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:リンダ・ホーグランド
撮影:山崎裕
出演:石内都
7月20(土)から東京の岩波ホール、全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山 治美