『最後のマイ・ウェイ』 生き急いだポップスター


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 『エディット・ピアフ~愛の讃歌』『シスタースマイル ドミニクの歌』と公開が相次ぐ、フランス音楽史を彩るミュージシャンの伝記映画。本作はあのフランク・シナトラの名曲『マイ・ウェイ』の生みの親であり、クロクロの愛称で人気を博したポップスター、クロード・フランソワの生涯を描く。

 とはいえ筆者はマイ・ウェイのエピソードはおろか、こんなに濃い彼の存在を本作を見るまで知らなかった。なんたる不覚! 「チビでガニ股で声も悪い」(byフランソワ)というコンプレックスを美容整形と押しの強さでカバーし、さらに派手なファッションとダンスでコーティング。尾崎紀世彦か? 郷ひろみか?
 しかし、次代を読むセンスは天下一品。米国で流行していたモータウン・サウンドをいち早く取り入れ、バックダンサーに黒人を起用。彼の冒険が、フランスのテレビ局で初めて黒人を出演させるという新たな時代を切り開く一端を担ったという。こうして誕生したヒットナンバーの数々がふんだんに使用され、音楽史と当時を知るにはもってこいの映画。
 ただし彼自身は39歳で早世。華やかな恋の遍歴といい、生き急いだ感がする。それもこれもスターならではの宿命か。人生とは皮肉なものよ。★★★★☆(中山治美)

 【データ】
監督:フローラン=エミリオ・シリ
脚本・脚色:ジュリアン・ラプノー
出演:ジェレミー・レニエ、ブノワ・マジメル、マルク・バルべ
7月20日(土)から全国順次公開
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中山治美のプロフィル
 なかやま・はるみ 映画ジャーナリスト。1969年水戸出身。スポーツ紙出身の血が騒ぎ、撮影現場やカンヌ、ベネチアなど映画祭取材に燃える。三池崇史、深作欣二、キム・キドク、アキ・カウリスマキなどひとクセのあるオヤジたちが大好き。
(共同通信)

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中山 治美