『我らに光を さいたまゴールド・シアター』 徳永京子著


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『我らに光を さいたまゴールド・シアター 蜷川幸雄と高齢者俳優41人の挑戦』
ひとりひとりの“人生”を演劇に

 すごい舞台を観た。先月鑑賞したさいたまゴールド・シアター第6回公演『鴉よ、おれたちは弾丸をこめる』。うまいとか下手とかそんな生易しい言葉では片づけられない、役者自身から漂ってくるひとりひとりの“人生”の深みが、圧倒的な力を持って劇場全体を包み込んでおり、とにかく終始圧倒された。

 それもそのはず、さいたまゴールド・シアターとは演出家・蜷川幸雄の発案により、高齢者だけを集めた劇団として2006年に結成された。団員は62歳~87歳までの41名、平均年齢74歳(13年1月現在)の高齢者の演劇集団という、世界でも類を見ないカンパニーである。蜷川自身がその設立理由を「年齢を重ねた人々が、その個人史をベースに、身体表現という方法によって新しい自分に出会うことは可能ではないか?」(公式HPより抜粋)と語るように、彼らには、芝居する上でプロの俳優では出せない彼らの“個人史”を出すことが求められている。私は演出家の狙いにまんまとはまったというわけだ。
 本書には劇団のこれまでの歩み、主宰の蜷川幸雄のインタビューに加え、ゴールド・シアターに作品を書き上げた岩松了、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、松井周ら演劇界の第一線で活躍する劇作家らの寄稿、劇団員全員のインタビューが収録されている。
 専業主婦やサラリーマンのみならず、教師や介護ヘルパー、日本舞踊の名取にコピーライターなど、語られる劇団員のこれまでの多種多様な人生と、蜷川演劇という新しい世界が交差すると……“老い”という誰もが通る道への新たな光を映し出す。何十年もの歳月を重ねてきた人生という名の蓄積が41名分語られており、読む方にも気合が入るというもの。とはいえ簡潔かつ興味深くまとめられているので、読み応えはあるが読みやすい。
 年相応という言葉の不相応を思う。常に新しい挑戦をし続ける蜷川幸雄とこの先の彼らに、括目せよ!
 (河出書房新社 2381円+税)=江藤かんな
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江藤かんなのプロフィル
 えとう・かんな 1980年生まれ。書籍編集を経て、雑誌編集の道へ。女性の興味・関心ごとを探る日々。好きなものは、こけしとおかし、お寺と仏像、お笑い全般。得意ジャンルは、雑学、ブーム、ゴシップ系。くだらないこと(もの)、大歓迎!
(共同通信)

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