【島人の目】伊国民が元首相を許すわけ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イタリア最高裁は今月初め、脱税事件で起訴されていたベルルスコーニ元首相に禁錮4年の有罪判決を言い渡した。元首相は数々の醜聞や訴訟事案を抱えながら、過去20年にわたってイタリア政界を牛耳り、首相在任期間は3期9年余に及んだ。

 なぜイタリア国民はでたらめな行跡に満ちたベルルスコーニ氏を支持し続けるのか、という疑問が国際社会ではよく提起される。その答えは単純だ。彼は希代の「人たらし」なのである。日本で言うなら豊臣秀吉、田中角栄の系譜に連なる人心掌握術にたけた政治家、それがベルルスコーニ元首相なのだ。
 こぼれるような笑顔、ユーモアを交えた語り口、説得力あふれるシンプルな論理、人なつっこさ、などなど。元首相は決して人をそらさない話術を駆使して会う人を引き付け、たちまち彼のファンにしてしまう。
 だがそうした彼の明朗は、軽薄や際限のないおしゃべりや大衆迎合、利己主義、あるいはばかや鈍感、無思慮などと表裏一体である。それらのネガティブな側面に、少女買春や脱税などの悪行を加えてみれば、恐らくそれは、イタリア国民以外の世界の多くの人々が抱いている、ベルルスコーニ元首相の印象とぴたりと一致するのではないか。
 そこに有罪確定判決が加わって「人たらし」の名人ベルルスコーニ氏の命運も、もはや尽きたように見える。しかし、希代の「人たらし」は実はまた世紀の寝業師政治家でもある。政治力と巨大な財力を使った彼の今後の工作によっては、事態が紛糾する可能性もないとは言えないのである。
(仲宗根雅則、TVディレクター)