TAOに足し算、リースに引き算 『ウルヴァリン:SAMURAI』


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▼ハリウッドのSFアクション大作『ウルヴァリン:SAMURAI』(9月13日公開)に日本人モデルTAOと、福島ミラの2人が、ヒュー・ジャックマン演じる主人公の恋人役と相棒役で出演。演技経験はほとんどないが、強烈な印象だ。2人を抜てきしたジェームズ・マンゴールド監督に会い、一体どんなワザで女優を輝かせているのか聞いてみた。

▼マンゴールド監督は『17歳のカルテ』(日本公開2000年)でアンジェリーナ・ジョリーを、『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』(06年)でリース・ウィザースプーンを、それぞれ米アカデミー賞に導いた人物。「特別なことはしていないし、女性と男性で演出を変えているわけではないよ。俳優は自身の内側にあるものの一部を投影するものだと思う。ただ、私が思う素晴らしい演技とは、いろいろなものを取り払うこと。足すのではなく引き算で取り払うもの。例えば…」

▼『ウォーク・ザ・ライン』の撮影現場を監督は振り返った。ホアキン・フェニックスがリースに初めてキスしようとする場面。リースはキスを受け入れかけて、ためらい、拒む。「実は、あの場面は何度も何度も撮ったんだ。毎テーク終わるたびに私は、リースに演技をもっと抑えるように『Less(少なく)、less』と言ったんだ。それでもリースは出し過ぎてしまうから、また『(ささやくように)Less、less』と。するとリースは泣きだして、『これ以上減らしたら私、このシーンからいなくなっちゃう…』と言ったんだ(笑)」

▼今回、ウルヴァリンで監督が、演技経験のないTAOらにしたことは、リースの場合とは逆。「もっと、もっと自分の中にあるものを出してみて」と声を掛けていったそうだ。TAOにも聞くと、「そうなんです。監督が『とにかく一度出しきってみて、それからそぎ落とせばいいから』とおっしゃって。ただ、やってみると、だいたい『それはやり過ぎ』って言われはしましたが(笑)」。

▼俳優を役に押し込んで演じさせるのではなく、俳優が持っているものを引き出し、洗練して使うマンゴールド監督。結局、完成した映画では、ヒロインの心境、主人公との関係が絶えず変わっていくさまが、よく描かれている。「繊細さや、もろさといった微妙なところを私は重視している。ただそれは、役者にとって真実であるものでなければいけない。映画はとてもささいなことが画面に現れるからね」。監督の声は低音でふくらみがあり、説得力と安心を感じさせるため、思わずうなずき過ぎてむち打ちになりそうである。泣いてでも監督に主張したリースのたくましさがうらやましい。(敬称略)
 (宮崎晃の「瀕死に効くエンタメ」=共同通信記者)

※『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』は1950年代、ロカビリー黄金時代を築いた歌手ジョニー・キャッシュと、再婚相手となる女性歌手ジューン・カーターとの十数年の愛の軌跡を描いた映画。
※リースに数年前インタビューした際の印象は、聡明で、外国の映画や社会の現状への関心が高く、丁寧な話し方だった。
※福島リラは来年のNHK大河ドラマ『軍師官兵衛』への出演も決まっている。
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。
(共同通信)

映画『ウルヴァリン:SAMURAI』の(左から)福島リラ、真田広之、ヒュー・ジャックマン、ジェームズ・マンゴールド監督、TAO=8月、東京都内のホテル
宮崎 晃