竹富教科書に是正要求 際立つ国の強硬姿勢 学校現場は冷静保つ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
八重山教科書問題をめぐる主な経緯(クリックで拡大)

 八重山の教科書問題をめぐり、文部科学省は最も強い措置である是正要求に踏み切った。竹富町教育委員会は慎重な姿勢を見せており、当面は国と竹富町との“板挟み”状態になった県教育委員会の対応が焦点となる。石垣市、竹富町、与那国町の各教委がそれぞれ採択した教科書の使用開始から2年目を迎え、定着が進む中での是正要求だけに、国の強硬姿勢が際立つ。

◆既に定着
 問題となっている中学校公民教科書は、石垣市、与那国町が育鵬社版を、竹富町が東京書籍版を使用している。国から違法性を指摘され、無償措置の対象外となっている竹富町も、有志の寄付を受けて生徒に無償配布している。学校現場からは「何ら問題はない」と、上層部の混乱をいぶかる声も聞かれる。
 ある校長は「問題と感じるようなことはない。途中で教科書が変わった方が困る」と述べ、是正要求に疑問を投げ掛けた。
 国には地方教育行政法に基づく是正要求の選択肢もあったが、文科省関係者は「同法で是正要求を出すには『児童、生徒等の教育を受ける機会が妨げられていること、その他の教育を受ける権利が侵害されていること』という条件があるが、それには当てはまらない」と述べ、現場に混乱がないことを認めた。

◆執念
 文科省幹部は「教科書問題はもともと総理の強い思い入れもある案件だ」と話す。同省関係者によると、「愛国心を育む教育」の実現に向かい一致した理念を持つ安倍晋三首相と下村博文文科相は八重山教科書問題でも議論し、「違法状態に毅然と対応するべきだ」との決断に至ったという。
 慰安婦問題で戦時中の旧日本軍の関与や強制性を認めた「河野談話」をめぐり、官房副長官時代の2007年3月に「直接的な軍の関与はなかった」と発言するなど“歴史修正主義者”と指摘されることもある下村氏。愛国心を育む教育に保守色の強い育鵬社の教科書が適しているかについては「答える立場にない」と言及を避けてきた。だが下村氏は18日の会見で「来年はより明確な改正も考えていきたい」と明言。法的義務をさらに明確にして育鵬社の教科書使用を迫る構えだ。
 問題の発端となった教科用図書八重山採択地区協議会は、委員を入れ替えて新たな協議を進めている。県教委は臨時会の開催を促し、9月9日には採択が違った場合の解決策を探る話し合いが持たれただけに、諸見里明県教育長は「こうした中で、是正要求の指示については残念な思い」というコメントを残した。(稲福政俊、松堂秀樹)