【島人の目】最年少首相は吉か凶か


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 イタリア史上最年少、39歳のマッテオ・レンツィ首相が誕生しそうだ。カリスマ的な男は弱冠34歳でフィレンツェ市長になり、昨年は38歳でイタリア最大政党民主党の党首に選ばれた。国政経験はないものの、全国的な人気もうなぎのぼり。政治腐敗と財政危機に苦しむイタリアの救世主になるのも時間の問題と見られていた。

 僕自身も氏に大いに注目し期待を膨らませてきた。期待通り、彼は今イタリアのトップになろうとしている。僕は大いに満足するはずなのに、どうしても手放しでは喜べない気分でいる。レンツィ氏が党友のレッタ首相を追い落として、自らに政権を引き寄せた手法が腑(ふ)に落ちないのだ。彼はその過程では、天敵のベルルスコーニ元首相とも手を結んでいる。その動きを大胆と評価する声もあるが、僕は疑問だ。
 レンツィ氏が政権に至る形は僕のイメージでは次のようなものだった。彼は近い将来満を持して総選挙に打って出る。氏の人気と実力で、民主党が地すべり的な大勝利を収める。そこで晴れて首相に就任する彼は、国民の熱い支持を背景に政治、経済、その他の分野の懸案に大なたを振るい、守旧派を一掃してイタリアの政治経済をよみがえらせる…。
 若いカリスマであるレンツィ氏には、十分にそんな能力と運と哲学が備わっているように見える。なのに彼が選んだのは、密室政治と非難されても仕方のない「選挙を経ない」政権樹立の道だった。
 僕は自分の不安が杞憂(きゆう)であることを心から願いつつ、新政権の行方を見つめている。
(仲宗根雅則、TVディレクター)