高齢者施設に一夜限りのスナック 84歳静子ママ輝く


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
糸村静子さん(前列左から2人目)の20年ぶりの「ママ」復帰を祝う来店者ら=2月28日、那覇市

 20年ぶりにもう一度スナックの「ママ」に―。那覇市識名の高齢者デイサービス「アプレシオ真地」は2月28日夜、約35年間スナックを経営していた施設利用者の糸村静子さん(84)=那覇市=のために、同所1階ロビーに一夜限りのスナック「静子の部屋」を開店した。

ミラーボールまで回す本格的な内装の同店には近隣施設の職員や利用者ら、約50人が来店し大盛況となった。糸村さんは「こんなに多くの人が自分を思って来てくれてうれしい」と笑顔で話していた。
 当日の運営や準備は職員が行った。女性職員が糸村さんに化粧を施した。10余年ぶりに化粧した糸村さんは、鏡の前に連れられ美しさを増した自身と向き合うと「恥ずかしい」と言いながらも一瞬で目を輝かせた。紫のドレスに身を包み、同じテーブルに座った“お客さん”との会話を楽しんだ。
 偶然、30年前の常連客・嘉数弘一さん(72)=那覇市=も足を運んだ。嘉数さんが「昔からたくさんお酒飲んでいたね」と話すと、糸村さんは「今日はほとんど水よ」とはにかんだ。
 糸村さんは那覇市前島に27歳でスナック「わら」を開店して以来、約40年間「ママ」として活躍してきた。同市若狭に2店目を構えてからは、約60人の従業員を抱える経営者の一面もあった。しっかりと全てのテーブルに座る客に声を掛けようとする糸村さんの姿は現役ママそのものだった。
 1月上旬から「静子の部屋」を企画した施設代表の名嘉智之さん(37)は、糸村さんの生き生きとした表情を見て喜んだ。当日は“同伴出勤”も果たした。スーツ姿で糸村さんを出迎えた担当ケアマネジャーの下地由修さん(45)は「本人の生きがいを追求するのが私たちの仕事。輝いていた瞬間を思い出すのがリハビリになる」とうれしそうに話した。
 糸村さんは「やると知ってからの1カ月間が夢のようだった。涙が出るほどありがたい。今日のことをあしたからずっと思い出にしていく」と話し、糸村さんにとって忘れられない夜となった。(長浜良起)