【島人の目】時代を先読みする目


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 アカデミー賞授賞式が終わると例年、受賞者や候補者、関係者を招いたパーティーが会場周辺で催される。いずれもメディアがシャットアウトされているためか、リラックスした雰囲気のパーティー会場はオスカー像を手にした勝ち組や残念賞組が和やかに談笑する姿であふれ、まるでクリスマスとお正月がいっぺんに訪れたようなにぎやかさだ。
 渡辺謙がプレゼンターとして登場したり、3部門で日本人がノミネートされるなど、いまだかつてないほど日本の存在を印象付けた今回の授賞式。なかでも、私が深く胸を打たれたのは、「硫黄島からの手紙」が作品賞部門で紹介された瞬間だ。
 静寂に包まれたコダック劇場に日本語が響き渡った瞬間、「私はまだ映画がよく分かっていない。だから映画を作り続けるのだ」といって1990年に特別名誉賞を受賞した故黒澤明監督のスピーチをふと思い出していた。果たして黒澤監督は、ハリウッドが全編日本語の映画を製作し、それが認められる時代がやってくると想像していただろうか。
 パーティー会場で出会ったスピルバーグ監督にそう伝えると、「やっと時代が追いついたんだよ」という意外な答えが返って来た。「ラストサムライ」「サユリ」に続き、「硫黄島~」もプロデュースしたスピルバーグは撮影前、クリント・イーストウッド監督と何度も黒澤作品をみてイメージを膨らませたという。17年前にジョージ・ルーカスとともに人生の師と仰ぐ黒澤監督にオスカー像を手渡したスピルバーグ。時間枠さえも自由に行き来する想像力を持つ彼はもしかしたらあの時、すでにこの時代の到来を見ていたのかもしれない。
 (平安名 純代、米ロサンゼルス通信員)