【島人の目】子育て


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 バイオリニストとして名高い五嶋みどりさんの母親、節さんの話を聞くチャンスがあった。節さんはみどりさんだけでなく弟の龍さんにもバイオリンを習わせ、同時にハーバード大学理工学部へ入学させたことでも知られている。
 節さん(大阪出身)は離婚の経験を持つ。子供にバイオリンを習わせようと日本を去りパリへ行った。しかし、パリでは相手にされなかった、という。あきらめて帰国しようとした時に運命に巡り合った。ニューヨークでバイオリンの教授をしている人が面倒を見ようといってくれた。天才バイオリニストとしての五嶋みどりさんと龍さん家族のアメリカ生活が始まった。
 子育てに関しては龍さんには体罰もしたが、抱きしめてこれ以上優しくできないほどかわいがった。龍さんの高校卒業論文は「孟母三遷の教え、キリストの母マリア、母としての紫式部―母は強し」という題で、母親の偉大さについて論じた。節さんは「自分流の子育ては間違っていなかったことをかみしめた」という。
 また、みどりさんは一時期神経が衰弱したこともあった。その時「あなたは世界一、私の宝物。悩みは一緒に分かち合って行こう」と言って慰めた。節さんは再婚し今は東京に、みどりさんはロサンゼルス、龍さんはボストンにそれぞれ住んでいる。
 環境の異なる外国で暮らしながら、子供を音楽の道で一流に育てあげるのは、容易なことではないだろう。節さんの人生は外国で暮らしたり、厳しい競争のもとで研究や芸術活動を志す人にとっては大いに参考になるだろう。逆境を克服したその生きざまは多くの人に感動を与えるに違いない。
(当銘 貞夫、米ロサンゼルス通信員)