「ゴンチチ」が還暦ライブ


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還暦を記念したライブで演奏する「ゴンチチ」=10月10日、東京・有楽町

アコースティックギターの音色に“大人”を感じる
 ずっと気になっているのに、なぜかじっくりと聴く機会がない―。誰にでもそんなミュージシャンが1人や2人はいるのではないだろうか。私にとって、インストゥルメンタルのアコースティックギター・デュオ「ゴンチチ」はまさにそのような存在だった。

 ゴンザレス三上とチチ松村。初めて2人の存在を知ったのは、中学生のころ。アコースティックギターを弾いていた友人に教えてもらったのがきっかけだ。きっと「ゴンチチ」という不思議な響きが耳になじんだのだろう。すぐにグループ名を覚えてしまった。
 そこで少ないお小遣いをはたいてアルバムの1枚でも買えば良かったのだが、当時(1980年代)は洋楽の全盛期。レッド・ツェッペリンをはじめ70年代の英国ハードロックに傾倒していた私には聴きたいアルバムが数多あり、2人の作品は後回しになってしまっていた。
 それからも折に触れて2人の活躍を耳にしていた。そのたびに「いつか聴いてみたい」と思ったが、なぜかアルバムを手にするまでに至らなかった。しかし、40代になった今にして思えば、それが逆に良かったのかもしれない。激しいロックが好きだった10代に聴いても、彼らの音楽の良さが分かったと思えないからだ。
 ようやく2人の音楽にじっくりと耳を澄ませることができたのは、是枝裕和監督の映画『歩いても 歩いても』(2008年)を見たときだ。登場人物にそっと寄り添うような叙情的な旋律が、映像の美しさを引き立てていた。一音、一音のあまりの素晴らしさに映画のエンドロールに注目していたら、そこには「ゴンチチ」の名前が…。そして、しばらくすると、うれしさがこみ上げてきた。ギターのアコースティックな音色に感動できるなんて、私もようやく大人になったのかな、と。
 10月10日、2人の還暦を記念したライブが東京・有楽町の東京国際フォーラムで開かれた。「60までやれるとは思わなかったので、自分たちもびっくりしている。ここまでできたのはお客さんのおかげです」とチチ松村。赤色のスーツ姿で軽やかにギターを奏でる2人の姿を見つめながら、私のようなゴンチチ初心者のためにもさらに活躍し続けてほしいと願った。(松木浩明・共同通信記者)
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松木浩明のプロフィル
 まつき・ひろあき 文化部音楽担当として演歌からヘビーメタルまで取材する。野外ライブは雨続きで、天気予報に一喜一憂する日々。
(共同通信)