『子どもとつくる地域づくり』 新たなつながり模索


社会
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『子どもとつくる地域づくり』野本三吉著 学苑社・2400円+税

 僕の夢は、近所のオジさんとして苦しんでいる子どもや家族と会い、必要としていることに応えてくれる人や機関、場所につないであげることだと思っている。本当は町内会や自治会が、こんな役ができるといいなァと思っているのだが、相談員は、最終的には暮らしやすい安心できる地域をつくるのが仕事だという気がする―。

 これは、本書の中で著者の野本が書いた夢であり、地域における子どもソーシャルワーカーへの道標(しるべ)であると私は感じた。
 野本は、横浜で小学校教員、日雇い労働者の町・寿町での相談員、児童相談所の児童福祉司としての実践と、それを礎にした、横浜市立大学、沖縄大学での地域に根差した実践研究活動を進めてきた。
 野本の実践・研究の基礎には野本が出会ってきた子どもたちとの関わりがあり、野本自身の自分史とも重ねながら、その中で普遍的な子ども体験を見つけ出す。
 それは、子どもには、三つの「間」が必要といわれ、育つためにゆっくりとした「時間」、育ち合う「仲間」、安心して遊べる「空間」であり、そして、子どもはさまざまな人間関係の中で成長するということである。
 さらに、地域の大人たちもその成長に元気になり、地域のつながりを取り戻すことができる。これは、少子高齢社会で地域のつながり合いが求められる中、地域の子どもを通じた新たなつながり「子縁社会」の可能性であり、子どもは一方的に支援される存在から共に地域をつくる存在へと捉え直すことが求められる。「子縁社会」の実現のためにはコーディネーターの存在と実践の学び合い、方法論の構築が必要不可欠であると野本は言う。
 読者は、今こそ、沖縄における子ども・若者支援ネットワークの再構築が必要だと実感するはずだ。
 (沖縄子ども研究会事務局・海野高志)
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 のもと・さんきち 本名・加藤彰彦。1941年東京生まれ。64年に横浜国立大学卒業後、横浜市内の小学校教諭。68年に教諭を退職し、日本各地を放浪。横浜市民生局職員などを経て91年に横浜市立大学助教授。2002年から沖縄大学教授、10年に同大学長。

子どもとつくる地域づくり: 暮らしの中の子ども学
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