非テレビ的でも十分魅力的 能年玲奈や中森明菜、あのBAR


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▼ナッツの出し方が気にくわなければ出す人を代えてもらえばいいが、箱根駅伝のテレビ実況が独りよがりにうるさくてもチャンネルは変えられない。残念至極。正月に集まった家族・親せき一同、実況者(1人か2人だけだが)に閉口し、げんなりと過ごした。

▼「ポリンキー、ポリンキー、三角形の秘密はね…」「バザールでござーる、バザールでござーる」など今も耳に残るCMの数々を手掛けた佐藤雅彦は、テレビは別のことをしながら見る、見てはいないがテレビをつけていることが多いので、まずテレビに振り向いてもらうため、耳に訴えかける手法を選んだと話していた。度を越してうるさい駅伝実況は、その手法を勘違いして実践したものだろうか。

▼能年玲奈が、関西テレビのバラエティー番組で「こういう場所でお話する時は、何が一番正しいんだろう…バラエティー番組に出る時に…まわりのスピードに…ついていけなくて慌てちゃうんですけど。そういう時はどうしたらいいのか…」と語ったそうだ。(注:デイリースポーツの記事より)
 どうもしなくていい。確かに能年は随分考えてから話す。沈黙の間、司会者らは困惑気味に突っ込んだり、言葉を継いだりする。沈黙はチャンネルを変えられかねず、視聴率を稼げる人気者でなければ許されないだろう。しかし今の能年の存在は無視できない。するとテレビがゲストや一般の人にまで強いているトークの速さや質の単一さがあぶり出されて面白い。ゆっくりでも考えながら話すという人間のごく普通のありようは“テレビ的”ではなく、そこに好感や関心を抱く視聴者は、テレビのターゲットから外されている。

▼中森明菜が先日、12年ぶりにNHK紅白歌合戦に出演した。米国からの生中継という。第一声の「ごぶさたしております」が例によって“テレビ的”とは真逆の小声過ぎて、かえって耳を澄ませて聞き入った。「日本は今、低気圧の影響でお天気が荒れていて大変なようですが…」。紅白で歌手がおよそ言いそうにない語句「低気圧の影響」は、彼女がテレビからごぶさたしているからこそ出たのかもしれない。忘れがたい一言になった。

▼20数年前、日曜夜にTBS系で放送されていたトーク番組『Ryu’s BAR 気ままにいい夜』は、司会の村上龍とゲストの話が弾まなければ、果てしないと感じるほど沈黙することが何度もあった。沈黙も人と人の関係を語る。生放送ではないのに長い沈黙を放送した番組に敬意を表する。現在、沈黙を恐れず、むやみにハイテンションになることを回避するタレントの筆頭はタモリだろう。

▼在京キー局のプロデューサーから「視聴率重視の傾向は80年代から強まり、90年代には業界におおらかさが消えた」と聞いた。よそで当たった手法があればすぐに取り込み、画一化し、伝わらなくなっていく。テレビに限ったことではなく自戒の念もあるが、一視聴者としては、テレビ的=視聴率至上主義になってしまったお作法に縛られず、番組はさまざまであってほしい。(敬称略)
 (宮崎晃の「瀕死に効くエンタメ」=共同通信記者)
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宮崎晃のプロフィル
 みやざき・あきら 共同通信社記者。2008年、Mr.マリックの指導によりスプーン曲げに1回で成功。人生どんなに窮地に立たされても、エンタメとユーモアが救ってくれるはず。このシリーズは、気の小ささから、しょっちゅう瀕死の男が、エンタメ接種を受けては書くコラム。

公開中の映画『海月姫』主演の能年玲奈<(C)2014『海月姫』製作委員会(C)東村アキコ/講談社>
宮崎晃