愛しかない
メッセージがない、そんな言葉を料理人の口から聞いたことがある。「この料理はこの食材が主役」「これをこう食べてほしい」などの作り手の思いが伝わってこない料理を批判しての言葉だったようだ。
最後のページを閉じて思った。「メッセージしかねえな……」。2人の子持ちのシングルマザーによる本書は、反抗期真っ盛りの高校生の次女へ逆襲をするためのキャラ弁、その名も「嫌がらせ弁当」を一冊にまとめたフォトエッセーだ。
「早起きしろ」「弁当箱だせヨ!!」「サソリざ6位よ」(朝の占いの結果のようです)「大掃除手伝え」「アラームうるさい」そして「歩け」「呪」……。まっ白いご飯はほぼ漆黒ののりに覆われて、その上には母からのメッセージ。呪って。娘の弁当に「呪」って。寝起きで作ってるとは思えない、お母さんの無駄にさえわたるセンスに驚かされる。そしてそれを3年間続けてきた根性にも。
そう、著者のttkk(Kaori)さんは本当に3年間、「嫌がらせ弁当」を作り続けたのだ。当時を振り返り、ネタに苦しむ日も多かったと語る。それでも、続けること。途中でやめることのなかった母は、高校生活も残りわずかな弁当のご飯の上に、こう書いている。
「無駄と思うことも本気でやれ」
「夢を叶えろ」
ひとつのことを続けた人にしか見ることのできない景色がある。そして、夢の実現は降って湧いてくるものではない。一歩一歩着実に積み上げてつかむものだ。
娘たちを一人前に育て上げる。どんな状況だってユーモアを忘れず、楽しんで切り抜ける。そんな全身全霊の決意が伝わってきた。愛って安易に使いたくないけど、でもこの弁当には、愛しかない。
(三才ブックス 1000円+税)=アリー・マントワネット
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アリー・マントワネットのプロフィル
アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。
(共同通信)