凝り固まった生き方に
ひかり輝く日々、と題された本書。在日25年のイタリア人マリアンジェラ・ラーゴと日本人ピアニスト関孝弘夫妻によるエッセーだ。
1989年、結婚を機に来日し、現在は「音楽と医療」研究に尽力する素直で明るい性格のマリアンジェラさんと、日伊音楽協会理事にパルマ・ドーロ国際ピアノコンクール審査委員長というなんだかすごそうな肩書を持つ、真面目で勉強熱心、実は目立ちたがり屋(?)の孝弘さん。2人の出会いはイタリアに音楽留学に来た孝弘さんがマリアンジェラさん一家の住む家に下宿をしたことがきっかけだそう。
「イタリアに長く住まないこと」「イタリア女と結婚しないこと」……。恩師にそう約束をさせられてイタリアに渡った孝弘さんは、イタリアの人々、そしてマリアンジェラさんと出会い、いとも簡単に約束を破ってしまう(ヒューヒュー!)。そんな2人が綴るのは、幸せに生きるためのイタリア的発想術だ。
「バラよりも胡蝶蘭の方が優雅で美しい」とバラの種で胡蝶蘭を育てようとする悲劇、ピアノを習いたいという幼いマリアンジェラさんに、ピアノを買い与えなかったお父さん、ユーモアあふれるイタリア人の皮肉、驚くべきイタリアの音楽院の入学試験……。吹き抜ける5月の風のようなエッセーの数々は、どれもあたたかでさわやか、そしてストレートだ。
しかしただ心地がいいだけじゃない。読み進めていくうちに、自分で自分を縛っている「日本的思考」の存在に気付かされてドキッとする瞬間も多々ある。巻末にあるよしもとばななさんとの鼎談も耳が痛い。日本にある「お返し」文化のやりすぎ感、家族の中にある遠慮、「散らかっているから」と親友を部屋に上げない関係(それ、本当に親友か?)などなど……。
いつの間にか凝り固まってしまった人生に対するスタンスを見つめ直せる一冊。うまくいっている日々もそうじゃない日も、前さえ向けば、毎日はきっとブリッランテだ。
(晶文社 1600円+税)=アリー・マントワネット
(共同通信)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
アリー・マントワネットのプロフィル
アリー・マントワネット ライターとして細々と稼働中。ファッション、アイドル、恋愛観など、女性にまつわる話題に興味あり。尊敬する人物は清水ミチコ。趣味はダイエット、特技はリバウンド。