<調査同行ルポ>風化進む32軍壕 首里城地下


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第32軍司令部壕の内部。補強されているが、風化が進む=9日、那覇市

 首里城地下にある第32軍司令部壕内で2013~15年度に実施している気温などの基礎データ収集調査が9日、行われた。県から委託を受けている建設コンサルタント会社「日本工営」の調査責任者が取材に応じ、落石が生じる範囲が拡大している現状などを説明した。

現在、3カ月に1回程度調査に入っており、壕は扉で密閉された状態で保存しているが、外気が入り込むことでさらに劣化が進む恐れもあり、調査以外などでは扉の開放は難しいという見方も示した。この日、調査責任者に同行して壕を訪ねた。沖縄戦から70年を経た同壕の様子をルポする。
 70年前の沖縄戦で軍事中枢となった第32軍司令部壕。現在は劣化の激しさから調査時などを除き、内部の姿を知ることはできない。向かったのは、県立芸術大首里金城キャンパス近くの斜面に位置する第5坑道の入り口。責任者によると、現在二つしかない立ち入り可能な入り口の一つで、戦中のものでは残存する唯一のものだ。生い茂る野草をかき分け進むと、入り口は目立たない位置にひっそりとあった。
 責任者が両腕で重そうな厚い扉を開けた。地面はかなりぬかるんでいる。壕内から地下水が湧き出ているからだ。懐中電灯の明かりを頼りに内部をのぞき込むと、天井や左右の壁面にかなり補強工事がされている様子が確認できた。
 一方、むき出しになっている岩盤からは風化が進む状況も感じられる。調査期間中も壕内では落石が続き、大きいものでは長さ約1メートルに達したものもあったという。
 地下にあるため、壕内からはひんやりした空気が流れる。責任者によると、壕内の気温は約23度、湿度約100%でほぼ一定に保たれており、「保存する環境としては悪くはない」という。現在出入りできる入り口は全て閉じられているが、どこからともなく風が流れる箇所があるという。
 乾燥した空気が入り込むと岩石が崩れやすくなるため、扉の開閉は制限せざるを得ない。2013年度に始まった調査も月に1回から、3カ月に1回程度に減ったという。責任者は「大雨が降ると落石が起きやすくなる。台風による気圧の変化も壕の劣化に影響を与えている可能性があるかもしれない」と語る。
 県による補強工事で劣化速度はある程度抑えられているが、止まったわけではない。調査責任者は「一般公開は難しいが、公開しないまま保存していく方法もあるのではないか」と話した。
 業者による調査は、12年度に開かれた専門家による調査・検討の結果を受け、壕の状態把握などを目的に実施している。壕内の気温や湿度、気圧の変化や岩盤の状態など基礎的データを収集し、本年度中に調査を終える予定という。(中里顕)