少女の雄たけびに込められた思い AKB48選抜総選挙


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社
AKB48選抜総選挙で1位になった指原莉乃の選挙ポスターには赤い花が。

 今年で7回目を迎えた「AKB48選抜総選挙」。指原莉乃が2年ぶりに1位を奪取し、会場の福岡ヤフオクドームにファンの歓喜の声がこだました。この夜、福岡市内のホテルはAKBファンで満員状態。自分もネット予約できず、いくつかのホテルと電話交渉の末、1人で2人分の料金を払うことでなんとか部屋を確保できた。

 取材を終えた深夜、福岡支社の先輩に連れて行ってもらった博多名物の水炊き店のバイトのお嬢さんがHKTの坂口理子(今回37位)に似ていたのもなにかの縁。勇気を出して声を掛けると、「リコピンに似ているって言われるのはお客さんで3回目です」とニッコリ。決して東京ではメジャーとは言えない坂口の愛称まじりの返事を聞いたとき、HKTメンバーの地元での浸透ぶりを感じたのだった。
 さて総選挙から10日も過ぎてアップすることになったこのコラム。「なにか総選挙で」と言われても、この間、さまざまなメディア、SNSなどで今回の総括、感想が飛び交った後である。いまさらぼくごときが何を…。
 そう思いながらも、あの熱気に包まれた会場での出来事であえて1つあげるとするなら、圏外から今年23位に躍進したSKEの谷真理佳の雄たけびだったかもしれない。「SKE48の谷です! HKTから移籍して約1年経ちましたが、一番うれしかったことはSKEの谷真理佳としてこのステージに立てたことです」。彼女の健闘とスピーチに心動かされながらも、「あれっ」と少しだけ引っかかりも感じた。
 もともと福岡出身。HKTで「自分大好き」のウザキャラがブレークし始めた矢先、昨年2月の「大組閣」でSKEへの異動が発表。本人は知らされておらずに大きなショックを受けたが、見ず知らずの名古屋でも徐々に本領を発揮し、SKEの「バラエティー班」として目立つ存在となった。
 SKEの深夜番組では伝説のバラエティー番組「電波少年」の企画に挑戦させられ、過酷なヒッチハイク旅と懸賞生活を送るはめに。その模様のロングバージョンが動画配信サイト「Hulu(フールー)」で独占配信されて注目を集めた。自分も旅の頑張りをもっと見たくてHuluに入った口だ。
 別の深夜番組ではAKBで一番の「汚れアイドル」として、ふくれあがったペットボトルが散乱する汚い部屋が全国に公開されてしまった。だが、そのすべてをさらけ出す感と、彼女なりに反省している様子がかえってファンの心をつかんだようだ。
 そんな谷の道のりを振り返るとやはりこう思うのだ。総選挙イベントのステージ上で本当はもっと地元九州のファンにも伝えたい感謝の言葉があったはず。だが思いがこみ上げすぎて、口から出たのは「SKEの谷として」だけだったのでは…と。そこに移籍が決まってからの彼女の心労と、それに負けない向上心の大きさが垣間見えた気がした。
 ただ今回の総選挙を振り返ると、SKE以外のAKBグループで「バラエティー班」を自任するメンバーの多くが圏外だった。いつも全力で踊り、リアクション芸では白目をむくことも辞さない西野未姫、顔芸が得意の中西智代梨、物まねが絶品過ぎる小笠原茉由―。
 ちびっ子人気が高そうだが、大人のファンの愛と財力が大きく影響する総選挙は、なかなか彼女たちの「努力」が報われる仕組みにはなっていない。東京から地方へ、または地方から地方へ流れ着き、そこで支持を集めたという「物語性」を帯びた指原や谷の人気は特異なケースといえるだろう。
 ここはもう「AKBお笑い選抜総選挙 神様に誓ってガチです」をやる時期にさしかかっているのではないか。これは決して逃げではない。多様なる価値観の導入である。(ちょっと大げさだけど…)
 一体誰が面白いのかを「ものボケ」や一発芸で決める―。いつも彼女たちが深夜番組でやっていることといえばハイそれまでだけど、そんなバラエティー選抜の面々にもっと光が当たる日が来てほしいと思う。(関口康雄・共同通信記者)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
関口康雄のプロフィル
 せきぐち・やすお 1996年入社。現在は文化部に在籍し、昨年5月から芸能・放送を担当 。
(共同通信)