事件の記憶、後世に 対馬丸記念館、証言収集に着手


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対馬丸事件の生存者の思いを紹介するコーナー。新たな事業による展示の充実も期待される=6月1日、那覇市若狭

 那覇市若狭の対馬丸記念館は対馬丸事件の生存者や遺族の証言を集める本格的な事業に着手した。終戦から70年になり当事者が高齢化したことが主な理由で、収集した証言の記念館での活用を目指す。

同館では撃沈から70年となった昨年から生存者に関する情報を寄せる人が増加傾向にあり、同館の外間邦子常務理事(76)は「館として『生きた証し』をしっかりと残していきたい」としている。
 対馬丸記念館によると、1994年8月に開館する際、生存者が各地に出掛けて証言を収集した。一方、開館後は来館した関係者から証言を得ることが中心になり、担当者が各地に出向いて証言を集めるなど積極的な活動はしていなかった。
 撃沈から70年を迎えた昨年、これまで生還を秘していた人や事件当事者の親類から「自分も対馬丸に乗っていた」「対馬丸に乗っていた人を知っている」などと同館に情報提供をするケースが相次いだ。以前は年に3件程度だったというが、昨年からことしにかけては月に2件ほどのペースで寄せられているという。事件の記憶を残したいと考える人たちが増えていることと、当事者が高齢化していることを踏まえ、同館は証言収集を本年度から事業化することに決めた。
 事業では、同館学芸員の慶田盛さつきさん(36)を担当に据え、県内外問わず証言や遺影の収集を行っていく。収集と証言の取りまとめを5年間で進める計画という。同館では現在も館内壁面に生存者の思いを紹介する文面が記され、事件の体験者の証言映像を見るブースがあるが、事業で集まった証言を展示にも反映させたい考えだ。
 慶田盛さんは「対馬丸での体験を現代の人たちや次の世代の人たちに伝えていくため、責任感を持って取り組みたい」と決意を語った。