戦争トラウマ 理解深めて 並里さん体験の手記、本に


この記事を書いた人 アバター画像 琉球新報社
3年がかりで書き上げた本を手にする並里千枝子さん=北谷町桑江

 沖縄戦中の1945年4月、伊江島のユナッパチク壕で生後6カ月の弟を失い、その後起きた「集団自決」(強制集団死)で友人を失った並里千枝子さん(79)=北谷町=が、戦争体験と戦争トラウマについて記した「知られざるユナッパチク壕~あの時、地の底で何が起きたのか」を出版した。

戦争トラウマを抱える当事者が自身のトラウマ反応について書いた本は珍しく、研究者は「多くの人が読むことで、戦争トラウマへの理解も深まるのではないか」と話している。
 並里さんは40歳を過ぎたころから体調に異変が起こり始めた。60歳を過ぎたころからは深夜にとても気分が悪くなり、下痢と嘔吐(おうと)がほぼ同時に起こる症状が出るように。安定剤を飲むと症状は治まるが、病院でも原因は分からなかった。
 沖縄戦・精神保健研究会の當山冨士子会長(元県立看護大教授)と出会い、自分の症状が戦争トラウマだと知った。「トラウマは心だけでなく、体にも症状が出ると知り、コントロールできるようになった」と話す。
 長い間、自分の体験を語らずにきた並里さんが自身の体験を手記にしようと思ったのは、初めて戦争体験を語った時だ。子どもたちの真剣な目に「話すこと、書き残すことが体験した人間の宿命ではないか」と感じた。
 しかし、書くことはつらい体験を思い出すことでもある。何度も筆は止まった。それでも3年がかりで書き上げた。並里さんは「胸の中にしまい込んでいたものが全部出た。楽になった」と話す。
 本には、トラウマとは何か、周りに求められるサポートについて、當山会長も原稿を寄せている。當山会長は「トラウマは消えないが、周りの理解と支援、本人の努力で落ち着かせることができる。苦しむ当事者、周りの人たちにも読んでほしい」と話している。
 「知られざるユナッパチク壕」は1300円(税別)。問い合わせは編集・デザイン工房プロス(電話)098(983)7322(火~土曜日の午前10時~午後6時)。