【島人の目】巨星墜つ


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 ファッションデザイナーのジャンフランコ・フェレが先日亡くなった。アルマーニやベルサーチとともにミラノファッションを世界のトップブランドに押し上げた立役者である。
 僕は10数年前に何度か彼と仕事をした。ファッションに対する知識もほとんどないままにミラノコレクションの取材をしていたころである。
 建築家でもあったフェレの作品には、ベルサーチの才気やアルマーニの優美とは違う何か確固としたものが底流にあった。建築設計の技術や見識がファッションデザイナーとしての彼の創造性を支えている、とでもいうような強い何かである。
 巨大な肥満体を持て余してはにかんででもいるみたいな雰囲気があった彼は、自らの作品の強さとは裏腹にいつも静かな優しい人で、ファッション音痴の僕が繰り出すばかな質問にもいやな顔一つせずに答えてくれた。
 雑音の激しいオープンスタジオからテレビの生中継をした時、「少し大きめの声でしゃべってください」と僕が言うと、彼は「分かりました」と蚊の鳴くような声で答えた。結局しゃべっている間はずっと蚊の鳴くような声だった。
 高慢や軽薄や尊大とは無縁だった大アーティストを取り上げるドキュメンタリーを僕は考えていて、彼は出演を快諾してくれていたが事情が許さないまま長い時間がたち、ついに永久に実現しないことになってしまった。仕事を通して、僕がこれまでに知り合ったイタリア各界の著名人の中でも、物腰がもっとも「普通の人」に近かった天才の死。「巨星墜(お)つ」僕は今とても悲しんでいる。
 (仲宗根 雅則、イタリア在住、TVディレクター)