「はいたいコラム」 世界に一つの手書きラベル


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 みなさ~ん、はいたい~!ハンダマをベランダで栽培している島野菜大好きアナウンサーです。
 わたしが初めて沖縄を旅したのは、かれこれ20年前。コーレーグースをおみやげに買おうと思いました。

 沖縄そば、チャンプルー、どんな料理にもちょっとかければ、ピリ辛の刺激で箸が進む唐辛子の泡盛漬け。コーレーグースの語源は、高麗草、高麗薬、高麗古酒など諸説あるそうですが、旅人にとっては、その味、香り、名前までエキゾチックです。
 牧志公設市場を回ると、どの店にもそれらしい小瓶はあるのですが、「唐辛子」としか書いてありません。ガイドブックの写真では、ボトルに「コーレーグース」と書いてありました。この沖縄らしい名前があってこそ、友達に渡すときも、「沖縄みやげだよ~」と言えるのであって、「唐辛子」では、オキナワ感が足りません。ネーミングも商品の価値だと思ったわたしは、お店のおばちゃんに、「コーレーグースーって書いてあるのが欲しいんですけど」と聞いてみました。すると、店のおばちゃんは、「書いてあるのがいいのねえ~」と言って、店の奥へ行き、唐辛子の文字と赤い唐辛子のイラストのわずかな隙間にボールペンでためらいもなく、「コ~レグ~ス~」とよれよれの字で書いたのでした。
 「わあ!これこれ!ラベルにコーレグースって書いてあるこれが欲しかったのよね~」って思うかー!という気持ちはすべて心にしまいこみ、わたしは小さく「あっ」とだけ発して、それを買いました。後日、友達に渡すと、ボールペンの走り書きを見て大爆笑。世界で唯一のおみやげになったのは言うまでもありません。
 モノ消費よりコト消費。商品に物語がないと売れない時代と言われています。作り手の思いや背景を表すネーミングはもちろん大切ですが、物語は製造過程だけで生まれるわけではありません。店先で手書き文字の小瓶を手渡した瞬間、おばちゃんは旅人に、バツグンの沖縄らしい物語を提供してくれました。おみやげを売る振りをしてその人は、20年語り継がれるみやげ話を売ってくれたのです。
 ラベルには「コーレーグース」と書いた方が喜ばれると今でもわたしは思っています。それがボールペンであればなおのことですね。
 (フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)
(第1、第3日曜日に掲載)
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 小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ。介護・福祉、食、農業をテーマにした番組司会、講演などで活躍中。野菜を作る「ベジアナ」として、農ある暮らしの豊かさを提唱、全国の農村を回る。