【島人の目】曲に託した思い


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 「高校の歴史の教科書の半ページに、きのこ雲の写真と数行の説明。『日本に原爆が落とされ戦争が終結した』と言って先生は説明を終えたんだ」。そういって彼は語り始めた。
 マイク・シノダは、若者に人気のロックバンド「リンキンパーク」のボーカリスト。スーパースターの彼が日系人として知られるようになったのは、日系米国人の強制収容体験をつづった楽曲『ケンジ』だ。
 「小さいころ、周囲の大人が『仕方がない』とか『我慢』とよく言っていたのを不思議に思っていた」。
 物心ついて自分のルーツを勉強し始め、日系米国人が捕虜として強制収容されたこと、日系人の権利が見直され始めたのは1960年代だったこと、88年に日系人収容は過ちだったと米政府が初めて認め、謝罪したことなどを学んだ。
 「我慢という言葉は、つらい時代を生き抜くためのものだった。僕らの世代は、あの時何が起こったのか、歴史を正しく理解して次へ伝える義務がある。だから僕は、この事実を伝えたかった」。今、マイクに託さなければという使命感の下に生まれた『ケンジ』。出来上がって数日後、曲を聴くために集まった祖母やおじたちは、ただ泣いて聴いていたという。
 自分が教科書から学べなかった史実を、歌を通じて世界の若者に伝えたマイク。収容所に向かう日系人に許されたのは私物を詰め込むためのたった2つの鞄(かばん)だった。教科書という限られたスペースに何をどう詰め込むか。次の世代への責任だ。
(平安名 純代、ロサンゼルス通信員)