【島人の目】アメリカン・ドリーム


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 メジャーリーグの話。アルフォンソ・マーケスは35歳。メジャーリーグで、たった1人のメキシコ出身のベテラン・アンパイアである。
 メキシコ中央部の田舎村サカテカス州ラ・エンカーナシオンで生まれた。貧乏で学校にも行かせてもらえず、9歳の時にアメリカに不法入国した。ロサンゼルス近郊で働くうちに野球に興味を抱く。
 ある時、彼は若者たちの野球大会でインサイド・ホームランを打った。だが、アンパイアが彼をアウトにした。3塁ベースを踏まなかったとの理由だった。以来彼は審判に多大な尊敬とあこがれを抱くようになった。
 借金をしてフロリダ州の「アンパイア・スクール」に入学。クラスで上位3番で卒業した。19歳だった。その後、めきめきと頭角を現し、マイナーからクラスA、そしてメジャーへ。8年間で1000回以上審判を務めた。2006年のオールスターの主審も務めた。
 彼は生まれ故郷では有名人である。「アルフォンソ基金」を創設し、恵まれない子供たちにスポーツの機会を与えた。教会へ導き、学校へ行かせ、アンパイア教育を施している。オフシーズンには毎年故郷に帰り、慈善事業に精をだす。「デッカイ夢を持て。きっとそれは実現可能な時が来る。アメリカン・ドリームの実現だ」と、子供たちにメッセージを送る。
 最近メジャーでは多くの日本人が活躍している。野茂投手のパイオニア精神のたまものである。彼は今でもメジャーへの復帰を夢見て黙々と練習に励んでいる。アメリカン・ドリームの再来を目指して。
 (当銘貞夫、ロサンゼルス通信員)